第10話 そこについているのは
私とクラーナは、ラノアとともにお風呂に入っていた。
私達は、いつも一緒に入浴している。そのため、それ自体はいつものことだ。
「あれ?」
「うん? ラノア、どうかしたの?」
そんなお風呂の時間に、ラノアは私を見ながらその首を傾げた。どうやら、何か疑問があるらしい。
しかし、どうしたのだろうか。私の顔に何かついているのだろうか。
「アノン、なんか赤くなっているよ?」
「赤く?」
「虫に刺されたの?」
ラノアの指摘に、私は自分の体を観察してみた。
すると、確かに赤くなっている部分を発見する。
ただ、それは別に虫に刺されたという訳ではない。とある理由でついているものなのだ。
「……」
「うん? アノン? どうかしたの? クラーナの方を見て……」
「ううん、なんでもないよ」
その痕は、昨日クラ―ナによってつけられたものだった。
そのことを理解して、私は思わず彼女の方を見てしまった。クラーナも、驚いたような顔をしている。そして、その表情はすぐに気まずそうなものになる。
どうやら、私達はまずいことをしてしまったらしい。よく考えてみれば、ラノアにこれを見られるのは必然だったのだから、もっと考えるべきだったのだろう。
「……もしかして、クラーナがつけたの?」
「え、えっと……」
「ア、アノンが可哀想だよ」
「そ、そうね……」
私がクラーナを見たことによって、ラノアはこれを誰がつけたかを察したようだ。
ただ、当然のことながら何故つけたのか、またどうやってつけたかは、理解していないようである。
という訳で、私達は誤魔化すしかなかった。これはクラーナが遊びでつけたもの、そういうことにした方がいいだろう。
「なんで、あんなのをつけたの?」
「その……遊んでいたら、そうなってしまったのよ」
「そうなんだ……アノン、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。別に痛くもかゆくもないから」
「そっか……それなら、良かった」
私とクラーナは、言葉を交わすことなくラノアへの言い訳を合わせた。
普段から、私達はじゃれ合っているため、その遊びの拍子にこの痕がついたというのは、ラノアにとっても理解しやすいことだろう。
「私も気をつけないといけないよね……」
「ええ、そうね」
「う、うん、じゃれ合うのはいいけど、怪我をさせるのは駄目だからね」
「うん!」
ラノアの元気な返事を聞きながら、私は内心安心していた。それは恐らく、クラーナも同じだろう。
こうして、私達はラノアとの会話をなんとか乗り切ることができたのだった。




