第8話 新しい店で
私は、クラーナとともにカフェに入っていた。
新しくできただけあって、中はとても綺麗だ。穏やかな雰囲気の店内には、お客さんがまばらにいる。
「まばらに……」
そこで、私はとあることに気づいた。
まばらに人がいる。それは開店したカフェにとって、まずいことなのではないだろうか。
本当にこの店は、大丈夫なのだろうか。私は少し心配になってきた。
だが、それは私が気にするようなことではないだろう。店側が考えるべきことである。
「さてと……何があるのかしら?」
「えっと……一応、カップル用のメニューを見てみる?」
「ええ、そうね……そうしましょうか」
私達は、少し照れながらそんなやり取りをしていた。
カップル用のメニューを頼む。それは、なんとなく恥ずかしい。
だが、せっかくだから、それを頼むべきだろう。こんな機会は、そうないのだから。
「す、すみません」
「あ、はいはい。なんですか?」
「カップル用のメニューって、どういうものなんですか?」
「ああ、このドリンクなんかは、カップル用ですよ」
「そうなんですね」
私は、先程の店員さんからメニューについて教えてもらった。
どうやら、ドリンクがカップル用であるようだ。時間的に、食事をしたい訳でもないので、それは丁度いいかもしれない。
「それなら、そのドリンクを二つ……」
「あ、いえ、カップル用ですから、一つですよ?」
「え?」
「まあ、持ってきた方が早いですかね。少し待っていてください」
「は、はい……」
店員さんは、私の言葉を受けて店の奥に行ってしまった。
よくわからないが、ここは店員さんに任せていいだろう。いや、よくわからないからこそ、店員さんに任せるべきだ。
「はい、こちらをどうぞ」
「え? これが……」
店員さんが持ってきたのは、オレンジ色のジュースだった。恐らく、オレンジジュースなのだろう。
しかし、それは別に問題ではない。問題は、そこにハートを模した飲み口が二つあるストローが刺さっていることだ。
「ごゆっくりどうぞ」
「は、はい……」
店員さんは、それだけ言って去って行った。
要するに、これは一つのジュースを二人で飲むということだろうか。それは、なんというか、中々楽しそうだ。
「……飲みましょうか?」
「う、うん……」
クラーナの言葉に、私はゆっくりと頷いた。
という訳で、私達はストローに口をつける。そして、そのままジュースを吸う。
至近距離に、クラーナの顔がある。さらに、私は彼女と一緒のジュースを飲んでいる。それは、なんというか変な感じだ。
こうして、私達はカップル用のメニューを楽しむのだった。




