第7話 新しくできた店
私は、クラーナと一緒に町中を歩いていた。
依頼も終わり、今日はもう帰るだけだ。
こういう時、私達はいつも寄り道をする。食料や日常品などを、買って帰るのだ。
「そこのお二人さん、少し待ってください」
「……え?」
「……私達に言っているのかしら?」
そんな私達は、メイド服のようなものを着た女性に呼び止められた。
彼女は、一体誰だろうか。まったく知らない人である。
知らない人から話しかけられるというのは、珍しいことだ。悲しいことだが、私達は基本的に避けられることが多い。だから、驚いてしまう。
「私達に、何か用ですか?」
「お二人さん、もしかして噂のアノンさんとクラーナさんですか?」
「えっと……そうですけど、噂って一体なんですか?」
「この町でも有名なカップルだと聞いているんですけど……」
「え?」
メイドさんの言葉に、私は少し驚いてしまった。
なぜなら、予想外のことを言われたからである。
こういう時、私達は大抵悪評を言われることが多い。それなのに、カップルなどという平和的な噂が流れているとは驚きだ。
「あの……あなたは、何者なんですか?」
「あ、すみません。実は私、あちらにある店の従業員なんです」
「この店? あっ……」
私は、メイドさんが何者かということを理解した。
なぜなら、彼女の指差した方向に華やかに飾られたお店があったからだ。
そこは、開店という大きな看板を掲げている。どうやら、彼女はあの新しくできた店の従業員のようだ。
「えっと、あれは何の店なんですか?」
「カフェです」
「カフェ……」
私は、店をよく見てみる。その外観からは、何の店なのかはわからない。
別に彼女の言葉を疑おうとは思わないので、恐らくはカフェなのだろう。
カフェというものは、私にもクラーナにも馴染みがないものだ。基本的に白い目で見られる私達は、飲食店には行かないのだ。
「えっと、私達が行ってもいいんですか?」
「もちろん、そう思って声をかけたんですから……」
「でも……」
「カップル用のメニューもありますよ!」
店員さんは、私達をとても熱心に誘って来てくれた。
よくわからないが、彼女やこの店は犬の獣人に対する差別意識などは持っていないようだ。
確かに、最近この町ではそういう差別が少なくなっている節はある。犬の獣人であるクラーナが、この町で色々と活動していく内に、そういう意識が薄れているのだ。
それが、この店にも及んでいるなら、入ってみてもいいかもしれない。カフェなんて、あまり行ったことはないが、クラーナと一緒にそういう店に入ってみたいという気持ちはある。
「クラーナ、入ってみる?」
「……そうね。そうしてみましょうか」
私の言葉に、クラーナはゆっくりと頷いてくれた。
こうして、私達は新しくできたカフェに入るのだった。




