第6話 褒め方へのこだわり
基本的に、料理の担当はクラーナだ。
私も手伝いはするが、それは彼女の指示を受けてのことであり、調理方法も味付けも、彼女のものなのである。
クラーナは、いつも手際がいいし、指示も的確だ。そのおかげもあってか、私も忌避していた料理にだんだんと慣れてきている。
「本当に、クラーナはすごいよね」
「あら? どうしたの藪から棒に」
「あ、ごめん。声に出ていたかな……」
私は思わず、声に出してクラーナを称賛していたようだ。
いつも思っていることではあるし、時々彼女にも伝えるが、今は少し唐突だったかもしれない。
「クラーナはね、料理ができてすごいなって、思ったんだ」
「アノンは、いつもそう言ってくれるわね。でも、別にそんなにすごいことではないのよ?」
「ううん、私からすればそうだよ。だって、私、料理なんて全然できなかったし……」
クラーナと出会う前まで、私は料理なんてほとんどしていなかった。出来合いのもので済ませるという生活を送っていたのである。
料理なんて面倒だし、多少値が張ってもその方がいい。そう思っていたのが、遠い昔の話のようだ。
今では、こうやって料理を楽しめているし、ついでに節約もできている。なんといか、いいこと尽くしだ。
「……ねえ、アノン。褒めてくれるのは嬉しいのだけれど、もう少しだけ要求をしてもいいかしら?」
「え? 何かな?」
そこで、クラーナは少しもじもじしながらそんなことを言ってきた。
どうやら、私に何かして欲しいことがあるようだ。それはなんだろうか。
「頭を撫でながら、褒めてくれない?」
「ああ、そういうことか。もちろん、いいよ」
「そ、それじゃあ……」
クラーナは、私に頭を向けてきた。
そんな彼女のふわふわな頭に、私はゆっくりと手を置き、そして撫で始める。
「クラーナは、料理が上手で美人で気遣いもできて、本当に自慢のお嫁さんだよ」
「アノン……」
私の称賛に、クラーナはその身を震わせる。
その顔も嬉しそうだし、こちらとしても喜ばしい限りだ。
「ねえ、クラーナ。ちょっと顔をあげてくれない?」
「え? ええ……」
そんなクラーナに、私は少し顔を上げもらうことにした。
彼女は、少し残念そうにしている。もう少し撫でてもらいたかったということなのだろうか。
それは、申し訳ないことをしてしまったかもしれない。ただ、こっちも彼女は喜んでくれると思うのだが。
「クラーナ……」
「アノン……ん」
私は、ゆっくりとクラーナと唇を重ねた。
喜んでいる彼女を見ていると、なんだか無性にそうしたくなったのである。
それに対して、クラーナは嬉しそうにしていた。そのことに、私は安心する。撫でるのを中断してまでやったのだから、そういう顔をしてもらえなければ、悲しかった所だ。
こうして、私達はじゃれ合っていた。その後、鍋が吹きこぼれそうになって慌てるまで、それは続くのだった。




