第5話 抑えていた衝動
私は、クラーナとラノアとともに庭に出てきていた。
今日は天気もいいので、ここで遊ぶことにしたのだ。
外で遊ぶための道具はいくつもある。ただ、今日はラノアがしたいことがあるらしい。
「こんな感じでいいのかな?」
「ええ、いいと思うわ」
という訳で、私はその準備をしていた。具体的には、庭の土を耕したのだ。
ラノアは、いつもサトラさんとともにテットアさんの畑を手伝っている。
手伝っているのだが、今日は別に家庭菜園をするという訳ではない。この耕した土で、存分に遊ぶのだ。
「ねえ、アノン、クラーナ、本当にいいの?」
「ええ、今日は思う存分遊んでいいわよ」
「うん、せっかくここまでやったんだし、めいいっぱいやってよ」
「よし、それじゃあ、いくよ!」
私達の言葉に応えるように、ラノアはその土にその腕を入れた。
そして、彼女はそのままその土を放り投げる。要するに、穴を掘っているのだ。
「うわあ、すごいね」
「ええ、そうね」
辺りには、砂埃が舞う。当然、ラノアも土塗れになっているだろう。
そんなことになるため、普通はこんなことはしない。今日は、特別なのだ。
「クラーナも、こういうことがあったの?」
「ええ、なんだか無償に穴を掘りたくなる時があるのよね……まあ、今回はストレス解消ということで、大目に見てちょうだい。あの子、普段から掘りたくなるような場所にいる訳だし……」
「あ、うん。まあ、ストレスになるなら、偶にはこういうのもいいと思うけど……」
「もちろん、度々させたりはしないわ。色々と大変だし……」
犬の獣人は、時折無償に穴を掘りたくなることがあるらしい。それも、本能というもののようだ。
特に、ラノアは普段から畑にいるため、そういう本能が刺激されるらしい。ただ、畑で穴を掘る訳にはいかないため、こうして発散させた方がいいようだ。
確かに、そういう本能があるなら、普段大変だろう。今日くらいは、思う存分穴を掘らせてあげたい所である。
「でも、こんなに楽しそうにしているということは、普段はかなり自制しているということなのかな?」
「ええ、そういうことでしょうね」
「ラノアは偉いね」
「そうね。私も、そう思うわ」
私とクラーナは、そう言いながら笑い合った。
普段、迷惑をかけないようにその本能を抑えているラノアは偉い。流石は、ラノアである。彼女は、本当にできた子だ。
こうして、私達は彼女が穴を掘るのを眺めていた。その内、クラーナもその衝動を抑えきれなくなり、私もそれに合わせて参加したので、結局三人で土塗れになるのだった。




