第97話 仲良し家族
私達は、エルキーナさんとともに温泉に入っていた。
時間もまだ早かったからか、温泉には他に誰も入っていなかった。という訳で、今は四人で貸し切り状態である。
「……気持ちいいわね」
「うん……」
私の隣で、クラーナとラノアがそう呟いた。
確かに、温泉は気持ちがいい。普通のお風呂と何が違うのかはわからないが、なんというか体に効いている気がする。
「……あの、一ついいでしょうか?」
「え? あ、はい、なんですか?」
そんな私達に、エルキーナさんは恐る恐る話しかけてきた。一体、どうしたのだろうか。
「皆さんは、どうしてそんなにくっついているんですか?」
「え?」
「あら?」
「へ?」
エルキーナさんの質問に、私達はほぼ同時に声をあげた。
そういえば、私とクラーナとラノアは、三人でくっついている。私の両隣に、肌と肌がくっつく程の距離で二人がいるのだ。
温泉はとても広く、今はエルキーナさんと私達しかいない。だというのに、私達は固まっている。それは、言われてみれば変な話かもしれない。
「まあ、これは犬の獣人の習性みたいなものね」
「そうだね……なんというか、くっついていたいというか」
エルキーナさんの言葉を受けて、クラーナとラノアは私の腕を抱いてきた。さらに体を密着させてきたのだ。
クラーナにそういう風にくっつかれると、色々とまずいような気がする。ただ、今はそんな風な気分になってはならないため、私は意識を話に集中させる。
「それに、普段は狭いお風呂で引っ付いているものだから、その癖でこうなったのかもしれないわね」
「三人一緒に入っているんですか?」
「うん、いつもそうだよ」
「なるほど……仲が良いんですね」
クラーナとラノアの言葉に、エルキーナさんは笑顔になっていた。私達の様子が、微笑ましく思えたようだ。
それは、少し恥ずかしいような気がする。いや、別に悪いことではないのだから、そう思う必要はないはずなのだが。
「まあ、確かに仲は良いと思います」
「そうね……」
「うん、皆仲良しだよ」
「そうですか……」
少し照れながら、私はエルキーナさんの言葉に返答した。二人もそれに続いて、同じように言葉を返す。
そんな私達に対して、エルキーナさんは先程と違い、少し寂しそうな笑顔を見せた。そこには、何か含みのようなものがある。
「私も、母とそのような関係になりたいですね……」
「エルキーナさん……」
「いえ、大丈夫です。多分、今度からはもっとそうなれると思うんです。おかげさまで、長年のしこりは消えましたから」
エルキーナさんは、その含みをすぐに話してくれた。その時の表情で、私は理解する。
彼女は、本当に大丈夫なのだ。きっとこれから、彼女には明るい未来が待っているだろう。




