第95話 旅館の一室
私とクラーナとラノアは、エルキーナさんとともに旅館の一室に来ていた。
部屋は、畳と呼ばれる床に、ふすまと呼ばれる戸で作られているそうだ。私達にとって、あまり馴染みがない部屋には少しだけわくわくする。
「それにしても、本当に私も同部屋で良かったのですか?」
「もちろんです。まあ、せっかくですから、色々と話したりしましょう」
「……はい」
エルキーナさんは、最初別の部屋に泊まろうとしていた。
だが、私達が同じ部屋でいいと言ったため、こうして四人で部屋まで来たのである。
「ところで、エルキーナさんもヨウコさんの正体は知っていたのですか?」
「ええ、この辺りの人は、皆知っていますよ」
「そうだったんですね……」
どうやら、ヨウコさんが狐の獣人であることは、この辺りの人にとっては周知の事実であるようだ。
まさか、獣人がそんなに受け入れられている町があるなんて驚きである。
「私やラノアを見ても特に嫌な顔をしなかったことから、獣人に慣れていると考えても良かったのかもしれないわね」
「ああ……でも、それは私に注目がいっているからだと思っていたし」
「ええ、そうね。私も、そうだったわ」
獣人に差別意識がないということは、もっと早くに気づけたかもしれない。私達を案内してくれた老人も、エルキーナさんも、彼女のお母さんも、クラーナやラノアに差別的な目を向けていなかったからだ。
ただ、状況的に、私というガランの娘に意識が向いているため、二人のことを気にしていないと考えられた。それが自然であったため、私もクラーナも気にしなくなっていたのだ。
最近は町を歩いていてもそれ程差別的な意識を向けられないことも、関係しているかもしれない。人々の意識が変わったことで、私達の意識も少し変わっていたという可能性がある。
「最近は、温泉の評判を聞きつけて、何も知らない人がたくさん来るようになりました。だから、ヨウコさんはああやって姿を変えているんです」
「姿を変える……魔法を自分にかけているということですか?」
「ええっと……本人は、確か違うものだと言っていたんですけど……」
「色々とあるんですね」
「ええ……そういうことになります」
ヨウコさんとこの町の人々の関係は、私達によって嬉しいものだった。
獣人に対する差別がなくなること。それは、私やクラーナが望んでいることだ。
それが成し遂げられている町があるという事実は、私達に希望を与えてくれる。いつか、二つの種族が分かり合える日が来ると。




