第91話 二人の娘
親切な老人の案内で、私達はガランの娘と呼ばれている人物の家に辿り着いていた。
そこは、何の変哲もない家だ。当然のことかもしれないが、特におかしい点はない。
「エルキーナ、いるかい?」
「はーい」
老人が呼び鈴を鳴らして声をあげると、中から一人の女性が現れた。
見た目的には、私達よりも少し年上の女性である。それも当たり前のことだ。
彼女がガランの娘だったとしても、時系列的に私の姉になるはずである。これで年下の人物に出てこられていたら、困っていた所だ。
「え、えっと……」
「こちらは、アノンさんだ。ガランの娘で有名な人だよ」
「アノンさん……まさか、あの……」
私の顔を見て、エルキーナさんというらしい女性は目を見開いて驚いていた。
反応からして、彼女も私のことは知っているようだ。そんな私が訪ねて来たことに、彼女は大いに混乱しているように見える。
「まあ、積もる話もあるだろうし、俺はこれで失礼するよ」
「あ、案内ありがとうございました」
「いやあ、気にしないでくれ」
老人は、なんてことがないような感じでその場を去って行った。
彼から見ると、エルキーナさんは突然妹が訪ねて来て驚いているという風に見えたのだろう。その反応は、特に気にならなかったようだ。
しかし、私から見ると、その反応は遂にこの時が来たかというような反応に見える。なんとなく、彼女は私の来訪に困っているような気がするのだ。
それは、恐らく急な来客に対する驚きではない。なぜなら、彼女のその瞳は、クラーナやラノアではなく、私にしっかりと向けられているからだ。
「えっと……エルキーナさん、私は、アノンといいます。あなたと同じ……ガランの娘です」
「はい……」
「私がここに来たのは、あなたと話がしたかったからです。私は、あなたに色々と聞かなければならないことがある……例えば、あなたが本当にガランの娘なのかどうかとか」
「……ええ、わかっています」
エルキーナさんは、私の言葉にゆっくりと頷いていた。
彼女は、とても辛そうにしている。やはり、この質問は彼女にとって嫌なものだったのだろう。
それでも、私は問いかけなければならない。そうしなければ、きっと彼女のためにもならないはずだ。
「……アノンさん、正直な所、私にもわからないんです」
「わからない?」
「ええ……ここに暮らしている皆は、私はガランの娘だとしています。でも、本当はわからない……真実は、闇の中にあるんです」
「それは……」
「……とりあえず、中に入ってください。こんな所で、話すよりはいいはずですから」
「……はい、失礼します」
エルキーナさんは、とても悲しそうに笑っていた。
その顔を見て、私は思った。やはり、私はここに来なければならなかったのだと。




