第90話 珍しい反応
私は、クラーナとラノアとともにフルルッカという町まで来ていた。
雪の降るこの町は、とても寒い。私達の町では、まだ夏であるというのに、辺りはすっかり冬のようである。もっとも、こちらの町では夏に雪が降るのは当たり前のことなのだろうが。
「さてと……ガランの娘なる人は、一体どこにいるんだろうね?」
「そうね……まあ、誰かに聞けばわかるのではないかしら?」
「そうだね。多分、町でも有名だろうし……」
私は、クラーナの言葉に頷いた。
という訳で、私は周りを見渡す。すると、一人の老人が目に入ってきた。
とりあえず、彼に聞いてみることにしよう。ガランの娘に会いたいと言えば、恐らくわかってもらえるはずだ。
「すみません、少しいいですか?」
「む? なんだい? あんたは?」
「えっと……ガランの娘という人を探しているんですけど……」
「何?」
私の言葉に、老人は少し表情を強張らせた。
もしかして、これは聞いてはならないことだったのだろうか。だが、ガランはここでは英雄のはずだ。その娘を探しているというのは、そんなに駄目なことなのだろうか。
「あんた達、一体何者だ? あの子に何の用だ?」
「ええっと……私は、アノンといいます。この町にいるという人同じように、ガランの娘です」
「アノン……?」
私が名乗ると、老人は目を丸くさせた。
その表情は、今まで何度も見たことがあるものだ。大抵の場合、私を知っていて、敵意を向けられるのが、いつものパターンである。
「な、なるほど……そうだったのか。それは、悪かった。そうだ……あんたらのことは聞いているよ。ガランの娘と犬の獣人が、立派な冒険者をしているとな」
「え? ええっと……まあ、冒険者ではありますね」
「すまなかったな……この町では英雄ではあるが、ガランは悪名高い男だ。その娘に対して、色々と言うような奴らが多くてな」
「そ、そうですか……」
老人は、今まで私が見たことがない反応をしてきた。
敵意どころか、友好的な感情が見て取れる。どうやら、ガランはこの町では本当に英雄であるようだ。
「あの子なら、多分普通に自宅にいるはずだ……まあ、説明するのは難しいし、案内させてもらうよ」
「え? いいんですか?」
「遠慮はいらないさ。あの子も喜ぶだろうしな」
「えっと……ありがとうございます」
老人は、私達の案内まで買って出てくれた。
それは、私達にとってとてもありがたいことだ。だが、その友好的過ぎる態度には、少し困惑してしまう。
私達は、今まで最初に敵意を向けられることが多かった。だから、こんな風な反応をしてしまうのだろう。




