第89話 もう一人の……
私は、クラーナとラノアとともに、ゲルーグの話を聞いていた。
彼はこれから、私が覚悟を決めなければならないようなことを話すつもりらしい。
「悪徳貴族を討伐したガラン一味は、町の人々からとても感謝されました……その感謝する人々の中に、一人の女性がいたんです」
「女性……」
「ええ……まあ、その女性は悪徳貴族によって、連れ去られていて……それをお頭が助けたんですが」
「うん……」
「彼女はお頭に思いを寄せていました……ええっと、関係を持った……わかりやすくいうと、しばらくの間付き合ったんです」
ゲルーグは、ラノアがいるためはっきりと言わなかったが、要するにガランは助けた女性と関係を持ったということなのだろう。
この話は、かなり昔のことだと言っていた。それは、恐らくガランとお母さんが会うよりも前なのだろう。
あの人は大いに問題がある人ではあるが、お母さんへの愛だけは本物だった。悔しいことに、それは私も認めている所だ。
だから、その前に女性と関係を持ったとしても、それは別に何か問題がある訳ではない。もちろん、多少複雑な感じがすることは否めないが。
「まあ、お頭は町に留まるつもりはありませんでしたから、二人は……まあ、破局した訳です。そこで、この話は終わりだった。一つの町の儚い恋とでもいいましょうか。それだけのことだったはずなんです」
「……ということは、何か問題があったんだね?」
「ええ……」
ゲルーグは、かなり神妙な顔をしていた。
恐らく、ここからが覚悟を決めなければならないことなのだろう。
だが、実際の所、もうなんとなく答えは察している。この流れから考えると、一つの答えが出てくるのだ。
「最近、一味の一人が仕事でその町に行ったんですが……そこで、一人の少女が言われていたんです。ガランの娘だと……」
「やっぱり、そういうことなんだね……」
ゲルーグの答えは、私が自分で考えていた通りのものだった。
ガランに隠し子がいた。彼は、それを私に告げに来たのである。
確かに、これは私にとっては色々と衝撃的なことだ。察していたとはいえ、それなりに心は揺さぶられる。
「二代目、ただ……その少女がお頭の娘かどうかは、本当の所、よくわかっていないんです」
「よくわかっていない?」
「仕事に行ったそいつは、当時はいませんでしたが、お頭の顔は知っています。それで、その少女がお頭に似ているかといったら、そうでもないそうなんです。まあ、もっとも母親には似ていたようですから、単純に父親に似ていないというだけなのかもしれませんが……」
「なるほど……」
「……その少女は、ガランの娘といわれて、複雑な表情をしていたようです。それも、俺達にとっては、気掛かりなことです」
「そっか……そうだよね」
ゲルーグの言葉に、私は色々なことを理解した。
恐らく、彼女はとても複雑な立場にあるのだろう。父親によって、彼女の運命は大きく変わるかもしれない。
「二代目……いいえ、ここは敢えて、お嬢と呼ばせていただきます。非常に申し訳ないことですが、今回の件は、お嬢に預けてもいいでしょうか? お頭がいない今、この件を解決できるのは、きっとお嬢だけです」
「私としては……二代目もお嬢も嫌なんだけどね。でも、まあ、そういうことなら、私に任せて。真実はわからないけど……悪いようにはしないからさ」
「……ありがとうございます」
私は、この件を解決することにした。
これはゲルーグの言う通り、ガランの娘である私にしか解決することができない問題なのだ。




