第85話 広くなったお風呂場で
私は、クラーナとラノアとともにお風呂に入っていた。
クラーナにもたれかかるような体勢になり、その隣にラノアという形になっている。
基本的に、私はもたれかかられることが多い。そのため、こんな風にもたれかかることは珍しい。
改めて思ったのは、こういう体勢はいいものだということだ。
「なんだか、いつもよりもお風呂が広いわね」
「そうだね……まあ、いつもが狭いともいえるのかもしれないけど」
「大人二人に、子供一人……容量的には、ぎりぎりだものね」
大人一人と子供二人になって、浴槽にはいつもより余裕ができている。いつも三人で入っているが、やはり三人は結構狭いのだ。
「でも、頑張れば大人二人、子供二人くらいはいけるよね?」
「まあ、私がクラーナにもたれかかっていられる訳だから、後大人一人分のスペースはあることになるのかな?」
「ええ、そうなるでしょうね。ただ、それだとものすごく狭い気もするけど……」
お風呂のスペースは、最大で四人くらいは入れる。だが、四人で入ればぎゅうぎゅう詰めになるのは間違いないだろう。
そもそも、このお風呂は恐らく一人で入るのを想定して作られているはずだ。こんな風に三人で入ることですら、想定されていないことだろう。
「まあ、これからラノアも大きくなることだし、お風呂については色々と考えないといけないのかもしれないわね」
「色々と考える? どういうこと?」
「増設するとかかしら?」
「増設か……」
クラーナの言葉に、私は少し考える。このお風呂を増設するというのは、可能なのだろうか。
当然のことながら、家の広さには限りがある。お風呂を増設するということは、他の部屋を削らなければならないだろう。
幸いなことに、この家は三人で暮らすには広すぎる程の大きさだ。お風呂を増設したとしても、そこまでは問題ないだろう。
ただ、どれくらい料金がかかるのかはまったくの未知数である。もし増設するとしたら、今からお金をためておいた方がいいかもしれない。
「というか、それならいっそのことリフォームするくらいの覚悟をしてもいいのかもしれないわね」
「リフォーム?」
「ええ、この家だって、結構古い訳だし……多分、色々とがたもきていると思うのよね」
「まあ、確かにそうだよね」
クラーナの言う通り、この家にも少しがたはきているはずだ。色々と劣化しているはずだし、リフォームできるならするべきだろう。
当然、それにもお金はかかる。これは、具体的に計画を立てておいた方がいいのかもしれない。
「ここだけの話ですけど、この家の天井裏とか見ていると、時々結構まずいかもしれないとか思いますから、リフォームはした方がいいかもしれませんね」
「わあっ!?」
そんなことを考えていると、いつの間にか浴槽の中に一人の女性がいた。
その半透明な裸体を見て、私は大いに動揺していた。ラノアの後ろに、いつの間にかレイコさんがいたのだ。
「アノンさんは、私が現れるといつも驚きますね? 普通に会話もできるのに、現れる時だけはいつもそういう反応なので、少し不思議です」
「それについては、最早条件反射というか……」
「なるほど、そういうことなんですね……」
レイコさんは、私の答えに納得したように頷いていた。
別に私は、レイコさんのことを怖いと思っている訳ではない。ただ、長年幽霊を怖がっていたために、突然現れられるとこういう反応をしてしまうのである。
「可愛いわ、アノン……」
「ク、クラーナ……」
そこで、クラーナが私を抱きしめる力を強くしてきた。
幽霊を怖がることを可愛いと言われるのは、少し恥ずかしい。
だが、伝わってくるクラ―ナの感触に、そんなことは割とどうでもよくなってくるのだった。




