第84話 変化した景色
私は、クラーナとラノアとともに家に帰って来ていた。
とりあえず、これから私は安静にしなければならない。この体が治るまでは、家で大人しくしていることになりそうだ。
「はあ、なんだか、変な感じ……」
「あら? 気分でも悪いの?」
「あ、いや、そういうことじゃなくてね……なんというか、景色がいつもと違うんだよね。視線が低いからなんだろうけど……」
「ああ、そういうことだったのね……」
私は、家にいながら違和感を覚えていた。慣れ親しんだ家なのだが、視線が低くなったことで少し様子が違って見えるのだ。
「クラーナを見上げるのも、ラノアと目線が同じなのも、変な感じだよ」
「まあ、それはそうでしょうね。私も、アノンを見下ろすのはおかしいと思うもの」
「私も、アノンと目線が合うのは変な感じ」
「そうだよね……」
この体になって、私は色々と違和感を覚えていた。
視線だけではなく、力も弱くなっているし、いつもと大分勝手が違っている。不便であるという訳でもないが、どうも変な感じだ。
「それにしても、アノンは子供の頃は、こんな感じだったんだね……」
「うん、そうだよ。どこか変かな?」
「可愛いわ、アノン」
「うん、可愛い」
「ふ、二人とも……」
二人は、笑顔で私のことを褒めてくれた。
褒めてもらえるのは、もちろん嬉しい。だが、やっぱり恥ずかしくもある。
「まあ、色々と心配なことはあるけど、アノンのこの姿を見られたことは、不謹慎ながら嬉しいことだわ」
「そ、そう?」
「だって、子供の頃のアノンなんて、普通なら絶対に見られないし、触れられないじゃない。その体験ができたことは、良かったといえるわ」
「……まあ、確かに、私もクラーナの子供の頃が見てみたいと思うこともあるから、気持ちはわかるよ」
子供の頃の姿とは、もう二度と見られなかったはずの姿だ。それを見ることができて、嬉しいという気持ちはわからない訳ではない。
もっとも、あの怪光線が安全なものかどうかまだ完全にわかっていないため、クラーナも心から喜べないというのが現状なのだろう。
「あの怪光線が安全なものなら、私も浴びようかしら?」
「あ、いや、流石にそれはやめておいた方がいいんじゃない? 魔物が相手なんだから、そもそも浴びに行くのが危険な訳だし……」
「でも、ギルドの冒険者達はそうするつもりだったような気がするけど……」
「まあ、それもそうなんだよね……」
クラーナの言葉に、私はギルドの様子を思い出した。
一部の人達は、今にも怪光線を浴びに行こうとしているかのような感じだった。流石にギルドの職員が止めているとは思うのだが、本当に大丈夫なのだろうか。
そういう人達のためにも、私の体がどうなっているのか、早く判明してもらいたいものである。




