第82話 当然の驚き
私とクラーナは、ギルドからすぐに帰ることになった。
魔物の説明などに関しては、リュウカさん達がしてくれている。一番被害を受けた私は、いち早く帰らせてもらえることになったのだ。
私の姿を見たことで、ギルドの者達は魔物がどういう能力を持っているかを大体把握していた。その時点から、次は俺が行くとか、そういう話が聞こえてきたくらいである。
やはり、あの魔物の若返らせる力には需要があるようだ。別にまだ完全に安全とわかった訳ではないのに行きたいというくらいなのだから、皆結構若返りたいのかもしれない。
「ラノア!」
「あ、アノン! クラーナ!」
という訳で、私達は八百屋のテットアさんの畑に来ていた。
私達が仕事をしている間、ラノアはこの畑で働いているサトラさんに見てもらっている。ここに迎えに来るのは、私達の日課だ。
「……あれ? アノン? どうしたの? その姿?」
「うわっ! 本当だ。アノン、小さくなってる?」
私達の来訪に気づいたラノアとサトラさんは、クラーナに抱きかかえられている私を見てとても驚いていた。
それは、当然のことである。突然、小さくなって戻ってきたのだ。驚かない方が無理というものだ。
それにしても、二人とも私がアノンだとわかるのが早い。アノンであること以外の可能性は低いとはいえ、一瞬で私だとわかるのは、犬の獣人が匂いによって人を識別できるからなのだろうか。
「実は、魔物との戦いで、アノンが若返ってしまったの」
「そ、そうなんだ……」
「そんな魔物がいるんだね? 聞いたことないけど……」
「ええ、それは当然よ。何せ、新種の魔物だったんだもの」
「新種か……二人も、大変だね……」
クラーナが事情を説明すると、二人ともまた驚いていた。
当たり前のことだが、こんな力を持った魔物は今まで認知されていなかった。そのため、その反応も当然である。
「アノン、私と同じくらいの年になったの?」
「え? ああ、うん。正確な年齢はわからないけど、大体そのくらいなのかな?」
「どこも悪い所はないの?」
「うん。多分……まあ、この後、先生の所に行って、色々と検査してもらうつもりだけど……」
「そっか……」
ラノアは、少し不安そうな顔をしていた。
その顔を見て、私は自分が選択を間違えたことを悟った。
こういう時には、嘘でも大丈夫というべきだったかもしれない。あまり、ラノアに心配をかけるのは良くないことだ。
「ラノア、検査は念のためだから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ?」
「あ、そうなんだ……」
「うん、大丈夫」
「うん……」
私は、少し手を伸ばして、ラノアの頭を撫でた。
その安心したような顔を見て、私も安心する。とりあえず、彼女の心配は晴れてくれたようだ。
「さて、そんな訳だから、今日は早く帰るわよ」
「あ、うん!」
「サトラ、今日もありがとうね」
「お安い御用だよ? 私も、ラノアちゃんがいると楽しいからね」
クラーナの言葉で、ラノアは再び畑の方に歩いていく。色々と片付けなければならないからである。
そこで、私はクラーナと目が合った。お互いに、自然に視線を向けていたのだ。
「ありがとうね、クラーナ」
「別に、私は何もしていないわ」
彼女が、ラノアが心配しないようにすぐに話題を切り替えてくれたことはわかっている。何もしていないなんてことはないのだ。
そのことには、感謝の気持ちしかない。本当に、彼女はとても頼りになる。
こうして、私達はラノアの片づけが終わるのをしばらく待つのだった。




