第80話 小さくなって
私は、ティネちゃんに体を診てもらっていた。
彼女は、回復魔法の使い手である。そんな彼女なら、私の体の変化に対して何か対処ができるかもしれないと思ったのだ。
「申し訳ありません。どうやら、私には治すことができないみたいです」
「そっか、まあ仕方ないよね……」
「不思議です。本当に、若返っているみたいですね……」
「うん、そうみたい……」
しかし、彼女でもこの状態を治すことはできないようである。
彼女の回復魔法は、怪我の治療から毒の治癒、さらには呪いを払うことまで可能だ。だが、流石に新種の魔物の謎の能力までは対応することはできないようである。残念だが、それは仕方ないことだ。
「アノンさん、どこか痛いとか、体がだるいとかありますか?」
「そういうのはないかな。強いて言うなら、盾が重くなったけど……」
「それは、単純に小さくなって筋力が落ちているということだと考えられますね」
「うん、多分そうだと思う」
「それなら、現状は命に別状はないということでしょうか……まあ、経過を観察していくしかありませんね」
ティネちゃんの言う通り、今は経過を観察していくしかなさそうである。今後、何か起こるかもしれないが、治せない以上、その何かを待つことしか、私にはできない。
ただ、これは毒や呪いという可能性は低い。後で何か起こるのは、大抵そういうものだ。だから、そこまで心配はないのではないだろうか。
油断していい訳ではないが、対策することもできないのだから、深く考えても仕方ない。この件は、一旦保留にするべきだろう。
「ねえ、アノン。不謹慎かもしれないけど、少しだけ言っていい?」
「え? 何かな?」
「可愛いわ……」
そこで、クラーナが私にそんなことを言ってきた。
そう言われて、悪い気はしない。だが、状況が状況だけに、少し複雑な気分だ。
「抱きしめてもいいかしら?」
「え? 皆の前だし、帰ってからにしない?」
「駄目?」
「……もう、仕方ないなあ」
「ありがとう……」
クラーナは、私にお礼を言ってから、ゆっくりと抱きしめてきた。
体が小さくなったからか、まるで彼女に包み込まれるような感覚に陥った。なんというか、この姿だとクラーナのことがとても大きく思える。
「……油断はできないのかもしれないけど、本当に無事でよかったわ」
「クラーナ……」
「あの怪光線をあなたが浴びた時、肝が冷えたわ。本当に、もうああいうのは勘弁して欲しいわ」
「ごめんね、心配かけて……」
私は、クラーナの頭をゆっくりと撫でた。
彼女が私を抱きしめてきたのは、小さくなった私が可愛いと思ったからだけではなかったようである。
私のことを、心配していたのだ。確かに、状況を考えればそれは当然のことである。あの怪光線がもっと凶悪なものだったなら、私の命はなかったかもしれないのだ。
そう思って、私はクラーナを抱きしめる力を強くする。そうやって、私達はしばらくの間抱き合うのだった。




