第79話 新種の魔物
私とクラーナは、リュウカさん達とともに森に来ていた。
この辺りが、新種の魔物が発見されたという場所である。私達の目的は、その魔物討伐なので、まずは相手を見つけなければならない。
「……まさかとは思うけど、あれなのかな?」
「ええ、多分、そうだと思うわ。特徴が一致しているもの」
新種の魔物は、案外すぐに発見することができた。
昆虫型で、蚊に似た魔物が一匹、木に止まっていたのだ。
「さて、どうする? 私やアノンで向かって行くか?」
「いいえ、相手は新種なのだから、まずは私の弓で攻撃してみるわ。近距離よりも遠距離の方が安全性は高いはずよ」
リュウカさんの言葉に答えた後、クラーナはすぐに弓を構えた。
彼女の矢には、色々な種類がある。基本的には毒が塗ってある矢を放つことが多い。恐らく、今回もそういう矢だろう。
「はっ!」
クラーナの弓から、矢が放たれた。
その矢は、真っ直ぐに魔物に向かって行く。
「シャアア!」
次の瞬間、魔物はその羽を揺らした。
すると、クラーナの矢はゆっくりと地に落ちていく。風を起こして、矢の軌道を変えたようである。
「シャア……」
その直後、魔物は動き始めた。
羽を揺らしながら、左右に揺らめきながらこちらの様子を窺っている。
「なるほど、素早い動きに羽による防御、それに高い察知能力、私には相性が良くないということね……」
クラーナは、言っていることに反して笑みを浮かべている。
何か考えがあるのだろう。まだ余裕そうである。
「もう一発……」
クラ―ナの弓から、再び矢が放たれた。
今度の矢は、魔物に向かって行かない。彼女の狙いは、近くの木であるようだ。
「シャア?」
クラーナの行動に対して、魔物も驚いていた。 自分を狙ってこなくて、拍子抜けという感じが、その様子からしっかりと伝わってくる。
「シャアッ!?」
その油断が、魔物にとって命取りになった。近くの木に着弾した矢が爆発したのだ。
今回のクラーナの矢は、爆薬を仕込んでいたらしい。小規模の爆発だが、巻き込まれた魔物は一たまりもないだろう。
「シャアア……」
ゆっくりと魔物が地面に落ちた。その体には、力が入っていない。恐らく、もう戦えるような状態ではないだろう。
「……なんというか、案外呆気ないものだな」
「そうですね……まあ、防御力はそれ程高くないのかもしれません」
「あの爆発だから、一概にそうも言えないだろう?」
「まあ、確かにそうですね……」
私もリュウカさんも、呆気ない勝利に少しだけ拍子抜けしていた。
だが、あの魔物が弱いという訳ではないだろう。今回は、偶然戦略が嵌っただけであるはずだ。
そもそも、獣人であり、相手の動きをかなり正確に感知できるクラーナだからこそ、先程の芸当は可能だったのである。普通の人間であるならば、もっと苦戦するはずだろう。
「……さて、そろそろ絶命したかしら?」
「うん、そうかな……」
少し間を置いてから、私達は魔物に近寄ってみることにした。
先程から、魔物は一切動かない。これは、流石に絶命したとみてもいいはずである。
警戒しながら、私達は魔物との距離を詰めていく。
「シャアッ!」
「クラーナ、危ない!」
その瞬間、魔物はこちらに顔を向けてきた。
私は、咄嗟にクラーナの前に出て、魔物の攻撃に備える。こういう時に盾となるのは、私の役目だ。
「……あれは、怪光線!?」
「アノン!」
魔物が放ってきたのは、草木を消滅させたという怪光線だった。
それに対して、私は両手を交差させて構える。
この時のために、私は盾を装備してきた。物体を消滅させる光線でも、この盾が代わりに犠牲になってくれるはずだ。
「シャア……」
「……あれ?」
しかし、私の予想に反して、怪光線は盾を消滅させなかった。
もちろん、私も消滅していない。確かに当たったはずなのだが、凶悪な変化は起きていないのだ。
魔物は、あれが最期に振り絞った力だったのか、既に力尽きている。一体、どういうことなのだろうか。
「ア、アノン……?」
「……うん?」
そこで、クラーナの困惑する声が聞こえてきた。
同時に、私も変化に気がついた。魔物に集中していて気がつかなかったが、なんだか視線が低い気がするのだ。
よく見てみると、服の袖が余っている。それに、盾も重い。
「……まさか」
私は、自分の様子にあることを理解する。
あの魔物の怪光線は、恐らく植物を消滅させたのではない。若返らせたのだ。
若返った植物は、種の姿に戻った。それが、周りの人からは消滅したように見えたのではないだろうか。
自分の体の変化と情報を合わせて、私は一つの結論を出した。あの怪光線には、生物を若返らせる効果があったのだ。




