第74話 初めて見る海
私達は、砂浜まで出てきた。
ラノアは、目をきらきらさせている。その目線の先には、当然海がある。
「すごい! 大きいね!」
「うん、大きいね……海は広くて、大きいんだよ」
「うわあっ! これが海の匂い……」
「気に入ったかしら?」
「うん! いい匂いだね!」
ラノアは、とても興奮している様子だった。
可愛い。それしか言葉が浮かんでこない。
「それに、砂浜もすごいね……なんだか、穴でも掘りたくなっちゃう」
「それは、やめておいた方がいいですわよ。目に入ったら危ないし、大変なことになってしまいますわ」
「あ、そっか。そうだよね」
ラノアの仕草に、レフィリーナちゃんは苦笑した。
彼女の仕草は、明らかに大胆に穴を掘る仕草だ。そんなことをしたら、辺りに砂が舞って大変なことになってしまう。
「……そういえば、あなたは泳げますの?」
「泳いだことはないよ?」
「だから、浮き輪は持ってきているんだ。はい、ラノア」
「アノン、ありがとう」
私は、ラノアに浮き輪を渡してあげた。
彼女は泳いだことがない。そのため、持ってきておいたのだ。
基本的に、獣人の身体能力はとても高い。少し教えれば、ラノアもすぐに泳げるようになるのではないだろうか。
「それじゃあ、レフィ。行こうか?」
「え? あ、ちょっと……」
「出発!」
浮き輪を持ったラノアは、レフィリーナちゃんの手を引きながら走っていた。
どうやら、もう限界だったようである。
「さて、二人のことは私が見ておくから、お前達はお前達で遊んでていいぞ?」
「え?」
「あの二人は、しばらく二人の世界だ。それなら、お前達もお前達の世界に入ってしまえばいいだろう?」
ラノア達を追いかけようとした私とクラーナを止めながら、レクリアさんはそう言ってくれた。
確かに、二人はこれから二人の時間になるだろう。私達が入るというのは、野暮というものだ。
だからといって、海が初めてのラノアから目を離すは気が引けた。だから、追いかけようとしたのだ。
でも、レクリアさんが見てくれるなら、クラーナと二人の世界に入るのもいいかもしれない。
しかし、それでいいのだろうか。なんとなく、その提案には気が引けてしまう。
「いいか、アノン。こういう時には素直に甘えればいいんだぞ? 親戚に任せられる時はそうする。それが、ストレスを抱え込まない方法なのさ」
「ストレス?」
「まあ、お前達にはわかりにくい話かもしれないな。でも、ここは頼りになる叔母に甘えてくれ。姪っ子に頼られたいという気持ちがあるんだよ」
「そうですから……それなら、よろしくお願いします」
レクリアさんの表情に、私はこの提案を受け入れるべきだと思った。
私にとって、彼女のような人は初めてだ。お母さんとは少し違うけど、それに近しい頼りになる存在。なんだか、未知の感覚である。
そんな彼女には、甘えるべきだと思った。深い考えもなく、自然とそう思ってしまったのである。




