第70話 楽しみなことは
私とクラーナとラノアは、馬車に乗っていた。
今日は、リュウカさん達と約束した日。私達は、海に向かっているのだ。
「海、楽しみだなあ……」
馬車の中で、ラノアはゆっくりとそう呟いた。
彼女は、海に行くのは初めてだ。だから、かなりわくわくしているのだろう。
だが、理由は恐らくそれだけではない。今日は、ある人物も海に来ることになっているのだ。
「レフィリーナに会えるのも、ラノアの楽しみよね?」
「うん。レフィと会うのは久し振りだから、それもとっても楽しみ!」
今日は、レフィリーナちゃんとレクリアさんも来ることになっている。ラノアが誘いたいと言ったので、私がレクリアさんに手紙を出した所、快く了承してくれたのだ。
しかし、これはよく考えればおかしな話だったかもしれない。これから行くのは、キーラさんの実家のプライベートビーチ。つまり、二人にとっても馴染みが深い場所であるはずなのだ。
それなのに、私が誘うというのはどこかおかしい気がする。なんというか、順序が変なのではないだろうか。
「お婆様も誘ったのよね?」
「うん、でも、若い者だけで楽しめばいいって」
「まあ、遠出になるし、お婆様には少し厳しいのかもしれないわね」
「うん……」
私は、ローレリムさんやキーラさんのお母さんにも手紙を出した。しかし、二人とも海に行く気はないようである。
理由は色々とあるかもしれないが、恐らく一番はクラーナが言っている通りだろう。
プライベートビーチまでは、それなりに距離があるため、長い時間馬車で移動することになる。ローレリムさんは、ご高齢だ。そんな長時間の移動は、できれば避けたいのだろう。
「近々、お婆様の元にも行きましょうか?」
「うん、そうだね……会いに行こう」
クラーナの言葉に、私はゆっくりと頷いた。
あちらが移動できないなら、こちらから行けばいい。それは、非常に単純なことである。
ローレリムさんとは、あれからしばらく会っていない。少しだけ気まずさというか、恥ずかしさのようなものもあるけど、それでも会いたいと思う。
彼女は、私の母のお母さん。つまり、私にとってはお婆ちゃんだ。会いに行くのに、きっとそれ以上の理由はいらないだろう。
「お婆ちゃんの所も行きたいけど、レフィの家にもまた遊びに行きたいな……今度は、三人で行きたい」
「そうだね。レクリアさんとも約束したし、そっちにも行かないとね」
ラノアの言葉にも、私はゆっくりと頷いた。
不思議なことに、私達には行かなければならない場所がたくさんあった。こんなことは、少し前までは考えられなかったことである。
でも、これはいいことだ。人との繋がりが増えたことに、私はなんだか温かい気持ちになるのだった。




