第68話 似合うかどうか
水着を買いに来た私達は、どのような水着にするかの方針を決めていた。
とりあえず、クラーナの水着は決まった。私の独断と偏見で、フリル付きのビキニということになったのだ。
「これとか、試してみる?」
「ワンピースですか? まあ、とりあえず、着てみます」
次に、カルテリーナさんがワンピースタイプの水着を渡してきた。
ビキニよりも布面積は広いため、こちらの方が恥ずかしさは少ないだろう。
という訳で、幾分か気は楽だった。ただ、よく見てみると、この水着はとても可愛らしいものだ。しかも、スカートもある。
なんだか、あまり気が進まなくなってきた。布面積は広いが、これは別の意味で恥ずかしい気がする。
「そういえば、アノンはスカートもあんまり着ないよね?」
「ええ、やっぱり、ひらひらしたのは嫌みたいよ。まあ、仕事の時に彼女は飛んだり跳ねたりするし、そういう所も気になるのかもしれないわね」
「あ、そっか……」
「私としては、そういうのは見たいけど……でも、他の人には見られたくないし、やっぱり仕事の時にスカートは駄目ね」
外からは、クラーナとラノアのそんな会話が聞こえてきた。
クラーナが言っているような理由で、私はスカートもそんなに好きではない。とにかく、私はひらひらしたものが得意ではないないのだ。
しかし、今は私のためだけに試着している訳ではない。そのため、私は恥ずかしさを抑えて素早く水着を試着する。
「うん? うーん……」
着てみて改めてわかったが、これはなんだか違う気がする。
やはり、こういうのは性に合わない。
そう思った直後、私の頭の中に一人の少女の顔が浮かんできた。この水着は、私よりラノアに似合う気がする。
「……どうかな?」
「可愛いわ、アノン……」
「うん、いいと思う」
出て行くと、二人はいつも通り褒めてくれた。
もちろん、褒めてもらえるのは嬉しい。だが、やはり、これは私には合っていないと思う。
そもそも、私もクラーナもラノアも、多分何を着ても似合うと言う気がしてきた。私は、クラーナとラノアに似合わないものはないと思っているので、多分二人も同じなのではないだろうか。
「ねえ、ラノア、この水着はラノアに似合うと思うんだ」
「え? 私に?」
「うん、クラーナもそう思わない?」
「確かに、ラノアにも似合いそうではあるわね……というか、似合うと思うわ」
頭の中で想像したのか、クラーナは力強い言葉を放ってくれた。
やはり、この水着はラノアに似合うようだ。自分の認識が間違っていなかったため、私は少しだけ安心する。
「二人がそういうなら、きっとそうなんだよね。それじゃあ、私はその水着かな?」
「わかったわ。これで、二人の方針は決まったわね。残りは、アノンちゃんだけね」
「あ、はい……」
「どれがいいかしらね……悩みどころだわ」
カルテリーナさんは、真剣な顔で水着を見ていた。
その顔を見て、私は自分の認識が間違っていたと理解する。
彼女は、クラーナやラノアの服に対して熱心だと思っていた。しかし、違ったのだ。彼女は、私に対しても真剣なのである。
それが、嬉しかった。そういう風に真剣になってくれる人とは、今までの人生でそこまで出会っていなかったため、こんなにも嬉しいのかもしれない。




