第67話 水着の試着
私は、クラーナとラノアとともに、服屋に来ていた。
リュウカさん達と海に行くために、水着を新調しようと思ったからである。
カルテリーナさんや他の定員さんによって、私達の寸法は終わった。そのため、後はどのような水着にするか、大体の方針を決めるのだ。
「それじゃあ、アノン、今回もよろしく頼むわね」
「ああ、やっぱり、そういう流れになるんだね……」
そこで、クラーナが私に水着を渡してきた。
今から、私達はカルテリーナさんも含めてどんな水着がいいのかを選ぶ。当然のことではあるが、水着や服というものは誰かが身にまとっている方がいい。
という訳で、誰かが試着するということになる。そして、都合上、それは私の役目となるのだ。
「アノンだけ着るの?」
「ええ、私やラノアは、尻尾があるもの。試着できるものは、着られないわ」
「あ、そっか……」
獣人の二人には、尻尾がある。そのために、カルテリーナさんや服屋の定員さん達に色々と頼むのだから、彼女達は試着役などにはなれないのだ。
カルテリーナさんもいるが、彼女は店員である。という訳で、私しかこの役目はできないのだ。
とりあえず、私はクラーナが選んだ水着を持って、試着室に入る。彼女が選んだのは、シンプルなビキニだ。
「まあ、シンプルなのは悪くないけど……」
私は、ビキニを着て鏡を見てみる。感想はあまり出てこない。私は大体、こういう感じの水着を選んでいた。見慣れている姿とでもいえばいいだろうか。
「どうかな?」
「アノン……似合っているわ」
「うん、いいと思うよ」
私が試着室のカーテンを開けると、クラーナとラノアが褒めてくれた。
どうやら、似合っているようだ。そう言われると、やはり嬉しい。その言葉だけで、思わず笑顔になってしまう。
「ふむ……」
「カルテリーナさん? どうかしましたか?」
「確か、アノンちゃんが前に着ていたのは、そういう感じのものだったわね?」
「ええ、そうですね……こんな感じだったと思います」
「悪くはない……でも、もう少し冒険してみてもいいのかも」
唯一、カルテリーナさんはそういう評価をしてきた。
冒険、それは一体どういうことなのだろうか。
「例えば、これはどう?」
「え? これですか?」
「ええ、まあ、とりあえず着てみて」
そこで、カルテリーナさんが一着の水着を渡してきた。
フリルがあしらわれたひらひらとした水着だ。こういう水着、というよりもこういう服はあまり着たことがない。正直な話、あまり好みではないのだ。
「アノン、なんだか微妙な顔をしていたね?」
「アノンは、ひらひらしたものをあまり着たがらないのよね」
「そうなの? 確かに、あまり見たことないけど……」
外からは、クラーナとラノアのそんな声が聞こえてきた。
クラーナの言う通り、私はひらひらしたものは好きではない。それは、単純な好みもある。どちらかというと、私はシンプルなものの方が好きなのだ。
実用的な面もある。動く時に、ああいうものは邪魔に思ってしまうのだ。別に普段着なら問題ないのかもしれないが、そこもあまり好まない理由だと思う。
「うーん……まあ、とりあえず、いいのかな?」
鏡を見て、私は少し唸っていた。
やはり、少し違和感がある。こういう服は、私ではなく、クラーナやラノアに似合うと思う。
まあ、今回は方針を決めるのだから、私が似合っているかどうかは問題ではない。二人に似合うと私が認識できたのだから、それはいいことだろう。
「どうかな?」
「あら? 中々、いいわね」
「うん、可愛いよ、アノン」
クラーナとラノアに褒められて、私は少し恥ずかしくなった。
似合っていると言われて、悪い気はしない。ただ、普段あまり着ないので、無性に恥ずかしいのだ。
でも、この服を着ていて、一つ思ったことはある。それは、この水着をクラーナに着て欲しいと強く思ったのだ。
「クラーナ、私はクラーナにこういう水着を着て欲しいな……」
「あら? そうなの?」
「うん……多分、クラーナにこそ、こういう水着は似合うと思うんだ」
「そう……アノンがそう思うなら、きっとそうなのね」
私の言葉に、クラーナは笑顔になってくれた。
前のクラ―ナの水着も、非常にシンプルなものだった。その時は、カルテリーナさんも獣人の水着を作るのが初めてだったので、そういうことにしてもらったのだ。
だけど、クラーナにはフリル付きの水着が似合う。それを、私は確信していた。
「そういうということは、アノンちゃんとしてはそれはお気に召さないという訳ね?」
「あ、はい……」
「なるほど、まあ、あなたがそう思うなら、それはやめておきましょう。さて、それなら、どれにしましょうか」
という訳で、クラーナの水着の方針が決まった。
後は、私とラノアの水着を決めるのみだ。




