第64話 いつも一緒に
私とクラーナは、戻ってきたラノアから思い出話を聞いていた。
彼女は、本当に楽しそうに話してくれた。この三日間は、ラノアにとって本当にいい時間だったようだ。
「少し、席を外すね」
「あら?」
話している最中、私は少し席を外すことにした。
トイレに行きたくなったのである。別に、それ自体は何もおかしいことではない。
おかしかったのは、私が立ち上がった瞬間、ラノアも立ち上がったことだ。
彼女は、少し不安そうな顔をしている。一体、どうしたのだろうか。
「ラノア? どうかしたの?」
「えっと……よくわからないけど、アノンについていかなきゃいけないと思って……」
「……トイレだよ?」
「うん……」
「ああ……」
どうやら、ラノアは私についてこようと思っていたようだ。
トイレに行くのに、どうしてついてくるのだろうか。私はそんな疑問を抱いたか、クラーナは少し納得したような顔をしている。彼女は、答えがわかっているのだろう。
「ラノアは、少し不安になってしまったのね……」
「不安?」
「私達と久し振りに一緒にいられる中で、アノンがどこかに行ってしまうことに不安を覚えたのよ」
「あ、そうなんだ……」
クラーナの解説を聞いて、私はなんとなく理解することができた。
これも、犬の獣人特有のことなのだろうか。そう思ったが、私も気持ちはわからない訳ではないので、人間でもあることなのかもしれない。
とにかく、ラノアがついてきたいと思っているなら、そうすればいいだろう。こんなに久し振りに会えたのだから、寂しさや不安を覚えさせえる必要はない。
「それじゃあ、ついてきてもいいよ。もちろん、中には入らないでもらえるとありがたいけど……」
「うん、わかった」
「それじゃあ、行きましょうか?」
「うん」
という訳で、私達は三人でトイレに向かうことになった。
なんというか、少し複雑な気持ちだ。私のトイレを二人が待つというのは、少し変な状況ではないだろうか。
◇◇◇
私とクラーナは、ラノアから色々な話を聞いた。
そんなことをしている間に、すぐに夕方になり、夜が来て。いつも通り、三人でお風呂に入り、いつも通り、ベッドの上で寝転がって。いつも通り、就寝の時間だ。
「なんだか、安心するね……」
「そうね……」
「クゥン……」
ベッドに寝転がって早々に寝息を立て始めたラノアを挟んで、私とクラーナは笑顔になっていた。
こういう風に、三人で眠りにつく日常は、とても安心できる。
これからも、こういう日常がずっと続いて欲しい。そう思える幸せな日常である。
「これからも、こういう日常が続いていくといいね」
「ええ……」
「お休み、クラーナ」
「お休み、アノン」
私とクラーナは、少しだけ身を乗り上げてキスをした。
クラーナとラノアと、こんな日常を続けられることが、私の何よりの幸せである。
これからも、きっと色々なことがあるだろう。でも、きっと大丈夫だ。愛すべき家族がいてくれる限り、私の幸せは揺るがないのである。




