第19話 依頼に行くのは待って欲しい
私は、クラーナとのキスを終えて、だんだんと落ち着いてきていた。
結局、またする約束をしてしまったが、まあいいだろう。
「アノン、少しいいかしら?」
そんな時、クラーナが私に話しかけてきた。
何やら、出かけるような格好である。
「クラーナ? どうしたの?」
「ええ、ちょっと出かけようと思って……」
「出かける? どこに?」
やはり、出かけるようだ。
一体、どこに出かけるのだろう。
「依頼をしに行こうと思ってね」
「依頼?」
そういえば、私もクラーナも冒険者である。
そのため、依頼をするのは当然のことだ。
だけど、私はクラーナのその言葉が、とても嫌に感じてしまった。理由はわかっている。
「……一人で行くんだ?」
「え? ええ、あなたはその手だし……」
それは、私が置いていかれるからだ。
クラーナが、私を置いて一人で依頼をしに行く。それだけのことが、どうしようもなく嫌だ。
寂しい気持ちもあるし、心配な気持ちもある。とにかく、クラーナを一人で行かせたくない。
「アノン、どうしたの? 私、何か不快になることを言った?」
クラーナは、私の態度に困惑していた。
これは、明らかに私が悪い。早く、理由を言おう。
「その……行かないで」
しかし、私の口から出たのは、そんな言葉だった。
「い、行かないで……って、どういうことよ?」
その言葉のせいで、クラーナの困惑をさらに加速させてしまったようだ。
だけど、今の言葉が私の真に言いたいことであったのは確かである。
この際だから、全部言ってしまおう。
「クラーナに、一人で依頼に行って欲しくない」
「きゅ、急にどうしたのよ?」
「依頼に行くなら、私が良くなってからにして欲しい」
「ええ? それは……む、無茶よ……」
私の言葉を、クラーナは喜んでくれているようだ。
言葉では、こう言っているが、私にはわかる。
なぜなら、その尻尾が左右に何度も振られているからだ。
これは、クラーナの喜んでいる時の合図。本人も、制御できない犬の獣人が持つ性質である。
「ねえ、クラーナ。私と……パーティを組んでくれない?」
「パーティ?」
私は思い切って、そんな提案をした。
パーティになれば、クラーナと一緒にいられるし、依頼も一緒にできる。
とにかく、メリットでいっぱいだ。
「これからは、常に二人で行動して、二人で依頼をしよう? そうした方が安全だし、寂しくないし……」
「アノン……」
クラーナは顔を赤くしながら、尻尾を振る。
そして、顔を近づけてきた。
「ク、クラーナ?」
「わかったわ。あなたの提案を、受け入れてあげる」
「本当!? ありがとう!」
クラーナは、仕方ないという風で受け入れてくれる。だが、その尻尾の振りが、嬉しいんでいるということを教えてくれた。
「それで、今日、私は依頼に行かない訳だけど……」
「あ、ごめん。ひょっとして、お金の貯蓄、そんなにない……?」
そこで、クラーナは考えるような素振りを見せる。
もしかして、お金が残っていないのだろうか。それでは、依頼に行かせないのは駄目かもしれない。
「そうではないわ。ただ、私の予定に少し空きができたのよ」
「あ、うん、そうだね」
しかし、そうではないようだ。なら、どうしたのだろうか。
「だから、その原因に責任をとってもらおうと思って……」
「原因……んん?」
私が悩んでいると、クラーナが口を塞いできた。
「ふふ、もうしばらく楽しませてもらうわ」
「うう、お手柔らかに……」
どうやら、私はまたしばらくクラーナに舐められるようだ。