第55話 その飲み方に
私は、二日酔いになったクラーナのためにお水を持ってきていた。
これで、少しは酔いが醒めてくれればいいのだが。
「はい、クラーナ」
「ええ、ありがとう……」
お水を受け取ったクラーナは、少し考えるような表情になった。
一体、何を考えているのだろうか。それを飲むだけでいいというのに。
「ねえ、アノン……口移しで飲ませてもらえないかしら?」
「え?」
真剣な顔で、クラーナは酔っている時と同じことを言ってきた。
どうやら、酔っていても酔っていなくても望んでいることは同じようだ。
「クラーナは、酔っていても酔っていなくても、あまり変わらないんだね……」
「べ、別にいいでしょう……」
「まあ、別にいいけど……」
私は、ゆっくりとお水を口に含んでいく。
この飲み方に慣れてしまって、普通に飲み物を飲めなくなったらどうしよう。そんなことを考えながら、私はクラーナに顔を近づけていく。
「……」
「んっ……んっ」
クラーナは、喉を鳴らしてお水を飲んだ。お酒の時とは違い、結構口に含んでいたが、すぐに口の中からお水はなくなった。
「ふう……美味しいわね。なんだか、体に染みわたるわ」
「やっぱり、二日酔いには効くのかな?」
「ええ、そうかもしれないわ」
余程、体に染み渡ったのか、クラーナは少し笑顔になっていた。
やはり、酔っている時にはお水がいいようである。
「ふう……」
「クラーナ、もう少し休んだら、食事にする? そもそも、食べられる?」
「どうかしら? 少し気分も悪いし、あまり食べられないかも……」
とりあえず、私はこれからどうするのかを確認しておく。
クラーナは、食欲はあまりないようだ。それなら、朝食は抜いた方がいいかもしれない。
気持ちが悪い時に、無理やり食べるのはできないだろう。しっかり、水分補給をするだけでいいはずである。
「まあ、とりあえず、休もうか」
「ええ、そうね……」
私は、クラーナとともにベッドで寝転がった。
今日は、大半をベッドで過ごすことになるだろう。ゆっくりと休んで、二日酔いを吹き飛ばすのだ。
「アノン、背中を撫でてくれる?」
「背中? いいよ」
クラーナに言われて、私はその背中を撫でいく。
恐らく、気持ち悪さを紛らわすために頼んできたのだろう。
ただでさえ撫でられるのが好きなクラーナなので、きっと気分は良くなってくれるはずである。
「ふう……もうお酒は飲みたくないわ」
「そうだね……」
クラーナは、この苦しさを体感して、お酒を嫌いになったようだ。
これは、とてもありがたいことである。お酒に弱い彼女は、もうなるべく飲まないで欲しいと思っていたからだ。
こうして、私達はしばらく休むことにするのだった。




