第50話 優先するのは?
私は、クラーナにこれ以上お酒を飲ませないように頑張っていた。
色々な手を使ってくる彼女を、なんとか止めているのだ。
「アノン、お願いだから、もう少し飲ませて……」
「クラーナ、いくら言っても、もう駄目。明らかにお酒に弱いんだから、これ以上飲むのは危険だよ」
クラーナは、とてもお酒を飲みたがっていた。
別に、そこまで美味しいとは思わなかったのだが、そんなに気に入ったのだろうか。
「お酒、そんなに美味しいかな? もっと、他のものを飲む方が楽しくない?」
「アノンに飲ませてもらったお酒は、とても美味しかったわ。アノンは、私が飲ませてあげたお酒が美味しくなかったの?」
「え? それは、美味しかったけど……」
「そうでしょう? だから、私はもう一度飲みたいの……」
クラーナは、私に口移ししてもらったお酒をもう一度飲みたいと思っているらしい。
もしかして、彼女は別にお酒にこだわっている訳ではないのではないだろうか。
もちろん、最初はお酒を飲みたいと思っていただろう。だが、口移ししてからは、そちらにこだわっているのかもしれない。
「クラーナ、少し相談してもいい?」
「相談? 何かしら?」
「例えば、お水を口移しで飲むのと、お酒を普通に飲むのとだったら、どっちがいい?」
「お水」
私の質問に、クラーナは即答してきた。
どうやら、彼女にとっては、私の口移しであることの方が大切だったようだ。
それなら、話が早い。これ以上お酒は飲ませたくないので、今からはお水を口移しで飲ませてあげることにしよう。
「クラーナ、それならお酒はもういいよね? お水なら、いくらでも飲ませてあげるよ」
「いくらでも?」
「うん、満足するまでいいよ」
「わかったわ。もうお酒なんていらないわ」
クラーナは、尻尾を振って喜んでいた。
その彼女を見て、私は心の底から嬉しくなってきた。なんというか、お酒に勝った気がするのだ。
酔ってお酒を求めるようになった彼女でも、私の口移しの水の方が価値が高いと思ってくれたのである。そのことが、無性に嬉しかった。こんなことそう考えるのは馬鹿らしいかもしれないが、とても誇らしい。
こんなことを考えるのは、私も酔っているからなのだろうか。よくわからないが、とりあえずそういうことにしておこう。
「それじゃあ、片付けるね。クラーナは、待っていてね。そんなことはしないと思うけど、片付ける最中に飲まれたら困るから」
「ワン!」
クラーナは、ソファの上で正座して待機していた。もうお酒など、眼中にはなさそうである。
そこまで心配する必要はないと思うが、念のため、お酒を片付けるのは私の役目だ。途中で心変わりして、お酒を飲んだりされたら困るからである。
足が痺れるといけないので、早く片付けた方がいいだろう。その後は、好きなだけお水を飲ませてあげよう。
こうして、私はお酒を急いで片付けるのだった。




