第49話 いつもなら?
私とクラーナは、お酒を飲んでいた。
クラーナはお酒に弱いらしく、すぐに酔ってしまった。だが、彼女はまだお酒を飲みたいと言ってくる。どうやら、正常な判断ができていないようだ。
「アノン、お願いだから、もう少し飲ませて……」
「駄目、もうお酒はおしまい」
「……仕方ないわね」
頑なにお酒を飲もうとするクラーナを、私は必死に止めていた。
ただ、彼女も別に強攻しようとはしてこない。今の所、私が口で駄目というだけで、飲もうとしないのだ。
基本的に、クラーナは私の言葉はよく聞いてくれる。酔っていても、それは変わっていないようだ。もしかしたら、私がいいと口にしない限りには大丈夫なのかもしれない。
「クラーナ? 何をしているの?」
「仕方ないから、服を脱いでいるのよ」
「仕方ないから? どういうことなの?」
そんなことを考えている私の前で、クラーナはおもむろに服を脱ぎ始めた。
その行動の意味が、まったくわからない。どうしてお酒を飲むための説得で、服を脱ぐ必要があるのだろうか。
「サービスすれば、飲ませてくれるかもしれないでしょう?」
「色仕掛けということ? そんなことしても駄目、飲ませてあげない」
「それなら……」
「待って、クラーナ」
クラーナが下着にまで手をかけたので、私はそれを止めた。
すると、彼女は動きを止めてくれる。本当に、口で言ったら止まってくれるのだ。そこは素直なのは、とても愛くるしい。
「クラーナ、そんなにお酒が飲みたいの? 今、自分が酔っていることをわかっていないのかな?」
「酔っている? そうなのかしら? 別に、いつも通りだと思うけど……」
「全然、いつも通りではないよ。クラーナは、もう少し冷静……」
「アノン? どうかしたの?」
クラーナのいつもの様子を思い出して、私は口を止めていた。
よく考えてみれば、乗ってきた彼女は酔っている時とあまり変わらない気がしてきたのだ。
いや、これよりは抑えめである。割と大胆なことをしてくることはあるが、ここまでではない。
「いつもは、もう少し冷静だよ」
「アノン、その間は何? なんだか、少し含みがある気がするのだけど……」
「気のせいだよ」
「本当?」
私の迷いのおかげで、クラーナは少しだけ冷静さを取り戻していた。
それで取り戻せるなら、酔っている自覚があるということではないだろうか。
いや、それすらもわからない程、酔っているということかもしれない。どちらにしても、これ以上、彼女に飲ます訳にはいかないだろう。
私とクラーナの攻防は、続くのだった。




