第24話 彼女達が怖いもの
私とクラーナとラノアは、いつも通りの日常に戻っていた。
レイコさんは、結局成仏できず、未だこの家に留まっている。
基本的には、今まで通り姿を見せず、眠っているようだ。もう私も怖くないと言ったのだが、それが本人にとって、一番楽な過ごし方であるらしい。
「アノン……」
「アノン……」
「二人とも、大丈夫だから、落ち着いて……」
現在、私達は家の中にいる。
いつもなら、私とクラーナが依頼に出かけて、ラノアはサトラさんの所に行くのだが、今日は、全員家にいるのだ。
もちろん、休む日もあるため、それは珍しいことではない。しかし、今日家にいるのは不測の事態のためである。
朝起きて私達が気づいたのは、外に雨が降っていたことだ。かなりの勢いがあり、とても出かけられるような状態ではなかった。
しかも、雷まで鳴り始めて、大変なことになっていた。という訳で、私達は家に留まることになったのである。
「ううっ……」
「ラノア、大丈夫だから……」
「クゥン……」
「クラーナも落ち着いて……」
雷に、クラーナとラノアはかなりびびっていた。
ラノアは、私の膝で丸くなり、クラーナは私の腕に抱き着いて離れない。二人とも、雷が鳴る度に体を震わせて、怖がっている。
「犬の獣人は、本当に雷が怖いんだね……」
「ええ、怖いわ」
「うん……」
犬の獣人というのは、雷がとても怖いらしい。
感覚が人間よりも優れている犬の獣人にとって、自然の状態が変わることは、かなり怖いことであるようだ。
きっと、私には想像できないような恐怖があるのだろう。二人の様子を見ていると、それがとても伝わってくる。
「ううっ……」
「クゥン……」
「大丈夫、大丈夫だから……」
幽霊に怖がっていた時とは違い、今度は私が二人を支える番だ。
雷が止むまで、励まし続けるとしよう。
「いやあ……大変そうですね」
「え?」
そう思っていた私は、寒気のようなものを感じていた。
クラーナが抱き着いている方の腕とは反対側の腕にも、何かが抱き着いてくるような感覚を抱いたのだ。
私は、ゆっくりとその方向を向く。すると、そこには見知った幽霊がいる。
「うああっ!?」
「アノンさん……まだ私に慣れていないんですか?」
「あ、いえ、慣れていても、怖いものは怖いというか……」
そこにいたのは、当然レイコさんだった。
その少し透けた体を見ると、私は反射的に驚いてしまう。レイコさんには申し訳ないが、これについてはしばらく治りそうにない。
「それにしても、どうしたんですか? 急に現れて……」
「いや、起きたら雷が鳴っていて……なんだか、不安になってしまって……」
「ああ、そういうことですか……」
どうやら、レイコさんも雷が怖かったようだ。
彼女も犬の獣人である。幽霊になっても、その本能は変わっていなかったようだ。
こうして、私は三人の犬の獣人を励ますことになるのだった。




