第21話 母親の過去
私達は、ローレリムさんから話を聞くことになっていた。
「まあ、話しといっても、非常に簡単なものだね……あの子が家出するといって、それっきりになった。ただ、それだけだね」
「家出……」
私のお母さんは、家出をしていたらしい。
それは、お母さんから聞いたことがあることだ。
なんでも、ガランの元に行くため、家族に迷惑をかける訳にはいかないと思ったらしい。
「それで辿り着いたのが、大悪党ガランの元というのが、なんとも馬鹿らしいというか、信じられないことだったけどね……」
「それは……」
ローレリムさんの言葉は、納得できるものだった。
家出して、辿り着いたのがガランという大悪党の元だったというのは、とても愚かなことだっただろう。
だが、逆に考えれば、それだけガランを愛していたということなのかもしれない。あの男にそこまでの価値があったとは思えないが、何か惹かれるものがあったのだろう。
「私の存在は……知っていたんですか?」
「ああ、ただ、存在を知ったのは、大悪党ガランに娘がいるという噂が出ていたから知ったのさ」
「ああ、なるほど……」
ローレリムさんは、私のことを知っていたらしい。
ガランに娘がいるということは、一部の地域でかなり広まっていた。今では、私達が暮らしている町でも流れているくらいだ。
それによって私の存在を知るのは、おかしいことではない。むしろ、当然の流れである。
「娘が生まれたからといって、会いに行こうとは思わなかった。あの子は家を出たのだから、こちらから干渉するべきではないと思ったのさ。その方が、お互いのためでもあるだろうからね」
「そうですね……」
「その少し後、あの子が亡くなったという知らせが届いたのさ……」
「あっ……」
ローレリムさんの口から出てきたのは、そのような言葉だった。
お母さんが亡くなったこと。それは、当然避けられない話題である。
「あんたのことは、探そうと思った……ただ、あんたは町からいなくなっていた。それで、消息がまったく掴めなくなっていたのさ」
「それは……」
私を探せなかったのは、当たり前のことだ。
お母さんがいなくなってから、私は町を転々としていた。ガランの娘だと知られていない町まで行っていたので、かなり移動していたはずである。そんな私を見つけ出すのは、かなり難しいことだろう。
「でも……私が、今の町に住んでいるのは、わかったんじゃないですか? 何年か前に、ガランの娘がいるという噂は広まりましたし……それに、そもそもキーラさんも私の知り合いでしたし……」
「ああ、そのことは知っていた。ただ、もう放っておこうと思ったのさ。あんたは、あんたの世界で、あんたの大切な者達と生きている。だから、私が干渉することはやめることにした。それだけの理由さ」
ローレリムさんが、私に干渉しなかったのはそのような理由があったらしい。
恐らく、今更、自立している私に関わろうとは思わなかったのだろう。
もしかしたら、お母さんとの確執もあったのかもしれない。家出した娘の娘に、複雑な感情を覚えているであろうことは、簡単に想像できる。
「……ローレリムさん、ついて来て欲しい場所があります」
「ついて来て欲しい場所?」
「ええ、色々な話はそこでするべきだと思います」
これまでの話を聞いて、私はローレリムさんをある場所に連れて行くことにした。
全ての決着をつけるには、その場所に行く必要があるだろう。




