第6話 投げる理由
私とクラーナは、ラノアちゃんとともに、ボール遊びをしていた。
しばらく遊んで、私はあることに気づく。
「そういえば、ボールを投げるのは私ばかりだね」
それは、私しかボールを投げていないことだ。
私がボールを投げて、クラーナとラノアちゃんが取りに行くが、別に二人が投げても問題ないのではないだろうか。
「それは……ねえ?」
「うん……」
私の言葉に、クラーナとラノアちゃんは意味深な表情になる。
どうやら、二人にしかわからない何かがあるらしい。
「まあ、話すと長くなるから簡単に言うけど、なんというか……アノンが私達を褒めてくれるからかしら?」
「褒める……?」
「アノンに褒めて欲しいから、ボールを取りに行っているんだよ」
「う、うん……」
何やら、色々と理由はあるようだが、まとめると、私に褒められたいからであるようだ。
そう言われると、なんだか嬉しい。
ただ、複雑な理由とは、どのようなものなのだろうか。少し気になるので、いつか、クラーナに聞いてみることにしよう。
そんな会話をしながら、私達はボール遊びを続けるのだった。
◇◇◇
私達は、ボール遊びを終えて、家の中に戻っていた。
「ふふ、遊び疲れたみたいね」
「うん、そうみたい」
遊び疲れたらしく、ラノアちゃんは私の膝で眠っている。
私とクラーナは、その光景に笑みを浮かべながら、見ていた。
「あ、そういえば……」
「うん?」
「ボール遊びの話、聞いてもいいかな?」
そこで、私はクラーナに問いかける。
ボール遊びで言っていたことは、いつかクラ―ナに聞いてみようと思っていた。今は、動くこともできないし、丁度いい時間だ。
「何かしら?」
「私しか投げない理由だよ? あれって、どういうことなの?」
「ああ、なるほどね……」
私の言葉に、クラーナは笑顔を見せてくれる。
どうやら、教えてくれるようだ。
「まあ、とりあえず、アノンは私のお嫁さんということでいいわよね」
「あ、うん……」
急に少し照れることを言われて、私はドキドキする。
確かに、私はクラーナのお嫁さんである訳だが、いきなり言われると、困惑してしまう。
というか、これがボール遊びの件となんの関係があるのだろうか。
「でも、その前に、私の飼い主ともいえるわよね」
「え?」
「同時に、現在はラノアの引き取り主でもあるはずよね」
「ええ?」
そこから、クラーナの話はとんでもない方向になっていった。
私が飼い主だとか、引き取り主だとか、よくわからない。
「クラーナ、どういうことなの?」
「まあ、アノンには難しい考えよね。でも、私達犬獣人は、一緒にいる人を上か下か判断することがあるの」
「え? でも、私とクラーナは、対等な関係じゃないの?」
「ええ、まあ、そうでもあるんだけど……」
私の言葉に、クラーナは少し困っているように思える。
どうやら、本当に難しい話であるようだ。私が、これ以上聞いてもわかりそうにない概念なのかもしれない。
「やっぱり、私にはわかりにくいみたいだね……」
「ええ、そうかもしれないわ」
こうして、私達の話は終わるのだった。




