第12話 眠る前にやるべきこと
なんだかんだあったが、私とクラーナは同じベッドで眠ることになった。
今は、二人でベッドの前に立っている。
「それじゃあ、入るわよ」
「……うん」
クラーナがそう呟き、ベッドに敷かれた布団の中へ入っていく。
私もそれに続き、二人で布団の中へと納まった。
「……案外、広いもんだね」
「……そうね」
この家のベッドは、結構な大きさで、二人で入ってもそれなりに広く感じられる。
これなら、狭さの心配はいらなさそうだ。
それでも、クラーナとの距離はかなり近いけど。
「クラーナ?」
クラーナの方を見ると、なんだか微妙な表情をしていた。
まるで、何かを我慢しているようだ。
「先に謝っておくわ。ごめんなさい……」
そして、唐突に私に謝ってきたかと思うと、その身を預けてきた。
「ちょ、ちょっと……」
「……すー」
クラーナは、私の首元に顔を埋めると、大きく息を吸う。
「……ああ」
そこで私は、理解する。
恐らく、これは犬の獣人としての性質なのだろう。
つまり、私の匂いを嗅いでいるのだ。
「すー」
私の匂いは、クラーナにとっていい匂いらしいので、近づくと嗅ぎたくなってしまうのも仕方はないだろう。
いや、もしくは、こうやって嗅ぐことによって、同じベッドで眠れるかを確かめているのかもしれない。
どちらにせよ、私はクラーナが落ち着くのを待つことにした。
しばらくそうしていると、クラーナがゆっくりと首から顔を離す。
その表情は、幸せに満ちているといった感じだ。
「ふー、これなら、大丈夫そうだわ……」
「それは、眠れるってこと?」
「ええ、なんだか安心できるし、今堪能したから、きっと平気よ」
「そ、そうなんだ……」
自分の匂いを堪能されたというのは、なんだか恥ずかしい。
だけど、クラーナが眠れそうでこちらも安心できた。これで、同じベッドでも何も問題ない。
「ごめんなさいね、急に……ずっと我慢していたから、つい……」
「我慢?」
「あなたの匂いを、嗅ぎたくて仕方なかったのよ。よくわからないけど、これも獣人の性質なのかしら?」
クラーナは、ずっと我慢していたようだ。
考えてみれば、私のすぐ側にいることは色々とあった。
「言ってくれたら、嗅がせてあげたよ。これからは、遠慮しないでね」
「……ありがとう。でも、言ったら引かれると思って……多分これは、犬の獣人だけにある特色だろうし……」
「だからだよ? 普通の人ならちょっと怖いけど、獣人としての本能なら、別にいいと思うし……」
最も、人間であってもクラーナならば許したかもしれない。ただし、これを言ったら逆に引かれそうなので言わないが。
「そう……アノンは、優しいのね……」
クラーナは、そう言って優しそうな笑みを浮かべる。
どうやら今夜は、安心して眠れそうだ。