第11話 お風呂上りの論争
私とクラーナは、お風呂から上がっていた。
「……そういえば、一つ問題があったわ」
私が、ソファの上でくつろいでいると、隣のクラーナがそう呟く。
「どうかしたの? 何か問題?」
「……今日、寝る場所のことよ」
その一言で、クラーナが何に悩んでいるか理解できた。
恐らく、この家にベッドが一つしかなくて、どこで寝るのかということだろう。
「この家に、ベッドは一つしかないわ……どうしましょうか?」
やっぱりそうだった。
でも、これの解決策は簡単なことだ。
「ねえ、クラーナ?」
「……何かしら?」
「一緒に寝るんじゃだめかな? ベッドってそんなに狭くないはずでしょ?」
単純な話で、ベッドが一つしかないなら、一緒に寝ればいいと思った。
そこまで小さなベッドでなければ、二人くらいなら寝られるはずだ。
「……それは、駄目よ……」
しかし、クラーナは私の提案を断ってきた。
「私は、ソファで寝るから、アノンがベッドを使ってちょうだい」
「そんな! それだったら、私がソファでいいよ!」
「客人を、そんな所で寝させる訳にはいかないわ」
「でも……」
クラーナの提案が、私には納得できない。
ソファで寝るのは体に悪いはずだ。一緒に寝るのが嫌でも、そんな場所でクラーナに寝て欲しくなかった。
「クラーナ、私達、お風呂まで入ったのに、どうして一緒に寝るのは嫌なの?」
「うっ……」
「……別に嫌でもいいけど、ソファで寝るのは体に悪いよ?」
「ううっ……」
私の言葉に、クラーナの表情が変わっていく。
なんだか、照れている感じだ。
しばらく、そんな表情をしていたクラーナだったが、突如意を決したような表情に変わり、言葉を放ってきた。
「別に、一緒に寝るのは嫌じゃないわ!」
「え……?」
「あなたには、さっき犬の獣人が持つ特性について話したわね」
「え、うん」
そこでクラーナは、お風呂で話したことを振り返る。
それが、今の論争に関係があるのだろうか。
「確か、鼻が人間より優れているんだったよね」
「ええ、だから、一緒のベッドだと、あなたの匂いが近すぎて、眠れるかどうか怪しいのよ……」
「え……?」
「……」
クラーナは顔を真っ赤にしながら、そう言ってきた。
この表情を見て、自分の匂いが嫌だからなど思えるはずもない。
つまり、クラーナは私の匂いが好きで、眠れなくなるかもしれないことを危惧しているようだ。
「うっ……」
自分の顔が、赤くなっていくのがわかる。
「だから、言いたくなかったのよ……」
「ごめんね、クラーナ……」
「もういいわ。この際だから、一緒に寝ましょう? ひょっとしたら、案外眠れるかもしれないし……」
「う、うん……」
こうして、私とクラーナは同じベッドで眠ることになった。