第10話 湯船に浸かって
「ふー、いい湯だねえ」
「……そうね」
私とクラーナは、湯船に浸かっている。
向き合うのは恥ずかしく、背中合わせも変な感じになるということで、私達は横に並ぶことにしていた。
横を見てみると、クラーナがリラックスしている。
そこで私は、クラーナに対する疑問を思い出した。
「ねえ、クラーナ?」
「うん……? 何?」
「クラーナって、犬の獣人でいいのかな?」
私は、クラーナのことを見た目で、犬の獣人だと思っている。
だけど、ひょっとしたら私の勘違いかもしれないので、聞いてみることにした。
「……ええ、そうね。犬の獣人よ」
「やっぱり、そうだったんだ」
どうやら、私の予想通りだったみたいだ。
「それが、何か問題かしら?」
「え? 気になっただけだけど……どうかしたの?」
クラーナの雰囲気が、少し変わった気がしたので、私は困惑する。
何か気に障ってしまったのだろうか。
「あ、ごめんなさい。その、獣人であることの話題って、今まで嫌なことばかりだったから……つい、気が立ってしまったわ」
「……そうだったんだ、ごめんね……」
クラーナは、獣人であることから、不当な差別を受けてきた。そのせいで、獣人という言葉が出ただけで、警戒してしまうようだ。
そんなのは、なんというか悲しくて辛い。
「あなたのせいじゃないわ。謝らないでいいの……」
「うん……」
なんだか、暗い雰囲気になってしまった。
「……クラーナ、獣人のことを教えてくれる?」
だけど、私は敢えてこの会話を続ける。
クラーナが、獣人という言葉で嫌な感情になるなんて、そんなのは駄目だ。
だから、私との会話で、少しでもいい思いになって欲しい。
「……いいわよ? なんでも聞いて」
クラーナは、私の提案を快く受け入れてくれた。
さて、何を聞こうかな。
「それじゃあ、犬の獣人って、どんな特徴があるの?」
「そうね……特徴的なのは、鼻が人間よりも利くことかしら。色々な匂いをかぎ分けることができるわ」
「匂いか……」
やはり、犬と同じような性質を持っているようだ。
そこで、私は一つ気になることができた。
「もしかして、私の匂いとかもあるの?」
「え? ええ、あるわよ」
「その……変な匂いじゃない?」
「あ、ああ、それなら大丈夫よ……とてもいい匂い……い、いえ、普通の匂いよ!」
クラーナは訂正したが、私は聞き逃さなかった。
いい匂いと思ってもらえるなら、私としても安心だ。
「ふふっ……」
「な、何を笑っているのよ!」
私が笑みを浮かべると、クラーナがそれに反発する。
そこに、先程までの暗い雰囲気はない。
私とクラーナのお風呂の時間は、そんな感じで終わっていった。