陽射
お前に一つ言っておきたいことがある、聞いてはくれないか。長いこと生きてきたが、本当にろくなことのない人生だった。親には捨てられたし、女は俺を置いてあっち側へ行ってしまった。俺には何もなくて、ただ毎日酒を飲んで余計に苦しむだけで。ただ一つ誰にも奪い取られなかった物が、俺の愛しい、大事な、大事な娘だった。
なあ聞いてくれ。こんな馬鹿な男であっても。こんな所で灰に戻るクズで、酒の悪魔に魅入られた男でも。俺は娘を愛していたんだ。わかるか?俺を置いて煙のように消えていく、この世のすべてを差し置いて。ただ一人俺に寄り添って、ただ一人俺を見ていてくれた。俺は娘がいなければ生きてはいけなかった。わかるだろう?娘が名前を捨てて土地を離れようとするまでは、俺が娘を愛してることをな、娘にも知って欲しかった。自分が父親にとってどれだけかけがえの無い存在で、もう二度と手に入らない最愛の家族であるか。感じ取ってほしかった。
なあ。その娘がだ、俺の大事な娘が。金持ちボンボンに取られそうになった。あの娘が俺を置いて逃げ出そうとした。それもあんな男と。野郎は…田舎の農民のことなんざ、これっぽっちも知らないんだろうよ。俺がどれだけ娘に目をかけてきたか。俺がどうやって娘を守ってきたか。あのときも悪魔が見ていたのさ。弾丸を二発。スラッグ弾だ。あんな男に取られる前に。自分でケリをつけた。俺のおかげで産まれたんだ。娘は俺のおかげで日の光を手に入れたんだ、奪い取る権利もあるんだ。
ワインはキリストの血なんだってな。あれは…どんなワインより赤くて。まるで薬莢が浮いた池みたいに広がって、銃とタバコの煙で世界がくすんでいた。俺は娘を失う前に、自分で。
なあ。俺の娘なんだ…仕方なかったんだ……
…
「では、死亡を確認しました。刑壇から下ろしましょう」
日の光を奪われた男は、執行官四人に抱えられ部屋を出た。