過去の戦争
バルトフェルトから語られる過去の事実。
元ロンダ-ク王国の騎士、ロイター・バルトフェルドは語る。『ハ-メリックの栄光』として史実に記載された戦争の事実は、俺達を震撼させた。
「私の属していたロンダ-ク王国は、豊かな農地に恵まれ平和な国でした。私自身15歳で騎士団に入隊し鍛錬を重ね、18歳で第一騎士団の団長となり順風満帆でした」
へぇ、3年で騎士団団長って凄いじゃないか。それだけの実力があったという事だな。
「当時、ロンダ-ク王国のあった場所は、大小様々な国々に囲まれておりました。その中にハ-メリック帝国もありました。私が団長になった頃は、各国が他国を侵略しない条約を結んでいたんです」
俺達の読んだ文献では、そんな事は書かれていなかったな。内戦って書いていた気がする。
「私が団長になって3年ほど経った頃、ハ-メリック帝国が周囲の国々に対し突然宣戦布告。不戦の条約を破る行為に対し、各国は抗議の声を上げました。しかしその翌年、隣接する国に侵攻が始まったんです」
「わずかひと月で2か国を征服した帝国は、降伏勧告の文面を送ります。その内容は到底看過出来るものではありませんでした」
「どんな内容だったんですか? 無条件降伏とかでしょうか?」
「そうですね。降伏すれば命の保証はする。共に戦う国は反対する国を攻撃せよという内容でした」
属国として対立する国を亡ぼすって事か。でもひと月で2か国を落とす戦力があれば、それまでの間でも戦争を起こす事が出来たんじゃないか? 俺はそんな風に疑問を持っていた。
「周辺国もそれなりに武力は持っていたんです。そんな言葉に従う事は無いと、一番近いリンデラ王国がハ-メリック帝国に侵攻したのですが、わずか3日で敗走しました」
「そのリンデラ王国って武力に自信があったんですか?」
「ええ、交流があった時代に剣術の大会があったのですが、常に上位に入ってましたね。『武のリンデラ』として有名でした」
「そんな国が負けたとなると、周辺国も危機を感じたでしょうね」
「はい。直ぐに情報を集めました。そしてハ-メリック帝国の指揮をした人物の事が分かったんです」
「それが転移者だったんですね? どんな情報だったんです?」
「侵攻したリンデラ軍の敗走者が言うには、突然周囲が吹き飛んだようなのです。炎に包まれるリンデラ軍に対し指揮する人物が放った言葉が、『帝国に歯向かうと吹き飛ばすぞ!』だったらしいです」
まさか爆弾か? この世界に火薬などまだないはずだ。どの時代の人物なんだ?
「その情報で周囲の国は降伏を決めました。それでも降伏しない国には、隣国により侵攻がはじまります。我がロンダ-ク王国は、その情報の真偽もわからないまま降伏など出来ませんでした」
「そうですねぇ。実際に見ないと分からない部分がありますから」
「降伏した国はリンデラが負けた事で、戦意を喪失したんだと思います。それに様々な情報の中にその人物が、『幸福の君』だと言うものもありました」
「文献の名前から見るとその人物は、我々と同じ世界から来たんだと思います。でも情報が少なすぎますね」
「私自身は騎士団の団長でありましたから、目の前に迫る軍隊に立ち向かうしかなかったんですが」
「その時の戦いで負傷されたのですね」
「ええ、激しい戦いでした。四方から囲まれ我が国は蹂躙されました。私は生きる事を優先し流れついたのがこの国だったんです」
バルトフェルトさんからの情報から考えると、転移者であることは間違いないだろう。それと気になるのは、爆発物を所有している可能性だ。もしそうなら、銃などの兵器が開発されている可能性もある。戦争に勝利してから静かなのも、開発に時間が掛かっている可能性もあるな。
「速水様、何かお気づきですか? ずっと考えていらっしゃいますけど」
「ええ、その事でブラウン様とアナマリア様には後でお話があります」
一通りの話を聞いた後、スラム地区の今後について話をした。工事の日程が決まり次第、バルトフェルトさんに伝える事にし今日は帰ってもらった。
「速水君、それで私達に話とは何だね?」
「速水様、私も気になっておりました」
「あくまでも可能性の話なのですが......」
それから俺が感じた事、大量破壊兵器の可能性などを話した。宰相は顔色を変え、直ぐに情報収集すると言って城に帰って行った。
「速水様、もしも危険になった場合の事はお考えですの?」
「そうですね。私もそちらの方面に詳しくないんです。会社に帰って皆の意見も聞こうと思います」
「私は貴方の味方ですよ。お困りの事があれば、何時でもお話しくださいね」
「はい。その時はお力をお貸しください」
最初に文献を調べた時に感じた不安は、悪い意味で的中した様だ。戦争に介入し人を殺傷するような人物が『幸運の君』? そんなわけないだろう? それに火薬の製造など一般人は知らないはずだ。不安と怒りを感じながら、会社へ急ぎ帰る事にした。多分、今頃王城も騒がしくなっているだろう。
その日のうちに帰る事は出来なかったが、翌日の昼にグランベルクに帰った。この件について皆はどう思うんだろうか―――
知り得た内容は多くは無かったが、転移者の性格や知識などは分かった気がする。
次話は、荒れる社内会議。




