動くアナマリアと謎の人物 後編
スラム地区に向かった俺達の前に現れた謎の男。
その正体とは?
スラムに赴いた俺達の前に現れた謎の男。上手く隠している様だが、右腕を失っているように見える。アナマリア様は、現れた男を見ても表情を変えず話し出した。
「私はこの地区の状況を知りませんでした。その事を先ずお詫びいたします」
アナマリア様の言葉に周囲がざわめく。ファリス教のトップがスラム地区の人々に謝罪を行うなど、ありえない事だったのだ。宰相も止めに入ろうとするが、それをアナマリア様が手で制止する。
「良いのです。全ての国民に希望を与える役割である教会が、これまで何の手も差し伸べていない事は愚かな事です」
「その謝罪。誠に感謝いたします」
謎の男はまるで騎士の行う礼のように片膝をつき、頭を垂れながらそう言った。やはり元は軍人であろうか? 俺はそう思ったんだが、宰相たちもその姿に見とれていた。
「アナマリア様。本日はそのお言葉を伝えに来て頂いたのでしょうか?」
「それだけではございません。失礼ですがあなたのお名前をお聞きしても?」
「失礼いたしました。私はバルト......そうですね、バルトとお呼びいただければ」
「バルトですね。ではバルト、本日はここにいる『神の御使い』。速水様から貴方達にご提案があります。それを聞いて頂けますか?」
「提案ですか? お話にもよりますが聞かせて頂けるでしょうか」
バルトと名乗った男の素性は後で確認するとして、俺は宰相の許可を得て話し出した。
「はじめまして。私は信頼雑貨株式会社の速水と申します。今日はこの地区にお住まいの方々に、お願いとご提案に参りました」
「速水様ですか。お噂は私共も存じております。我々の家族であるリザの一家をお救い頂いたと聞いております」
「あの一家を助けた事は偶然です。ですがその事にもこれから話す事は関係しています」
俺はそう言ってから今回ここに来た目的を話し出した。蔓延する風邪などの予防の為に、下水整備等の工事を行いたい事。それに伴いこの地区も新たに整備したい事。そしてそれに付随して雇用の確保と新しい住居の建設など、今考えている事を説明した。
「そうですか。それは我々にとっても良い話ですね。ですが今の我々が仕事が出来るでしょうか?」
そう言ったバルトは身に着けていた上着を取った。やはり右腕のひじから下が無い。
「勿論、その方にあった物を考えますよ。足の不自由な方には座ってできる仕事を。手が不自由な方には無理のない仕事も考えます」
「そこまで考えてのお話ならこちらも考えさせて頂きます。ですがそれでも反発はあると思いますが」
「ああ、この地区の住民が罪を犯し拘留されている事、又は職を理不尽に失った方々も居られますよね?」
「はい。よく分かっておられますね。殺人や窃盗以外でも、ここの住民だからと言う理由で捕らわれた者も多くいます」
「わかりました。重罪人以外の人々は詳しく話を聞いた上で、納得できる内容なら釈放します。我々信頼雑貨が責任を持って」
「おい! 速水君! 勝手にそんな事を決められても困るぞ!」
「宰相、その件はファリス教も支持いたします。速水様と共にあるのがファリス教徒でありますから」
宰相に相談も無く発言したが、これぐらい出来なければこの計画は無理だ。長年の確執はそう簡単に無くならないしな。アナマリア様が同調してくれるとは、思っていなかったけどね。
「その条件を守って頂けるのなら、私からここの住人に話をします。本当に信じてよろしいですか?」
「はい。俺は今の状況を変えたい。そして皆さんの笑顔が見たいんです」
俺はそう言い頭を下げた。それに続きアナマリ様も同じく頭を下げる。その光景はスラムに生きる人々にどう映ったのだろう? 頭を上げた時にはスラムの住民が出て来ており、中には涙を流す者も。それ程今回の行動は皆の胸を打ったんだろう。
「お二人のお気持ち、確かに受け取りいたしました。我らは貴方達に協力致します!」
バルトの言葉にスラム地区の住民が一斉に頭を垂れた。神に祈る者もいれば、泣き崩れる者もいる。それを見た宰相と衛兵たちも臣下の礼を取った。
「えっと......あれ? どうしたらいいんだろう?」
「速水様、やはりあなたは『神の御使い』でございます。貴方の言葉に皆が心を打たれたのですよ」
うーん。俺はただ普通の対応をしただけなんだけどな。俺の気持ちは会社に話しても納得してくれるだろう。日本人としては普通の感覚だと思う。全ての人は救えないけど、目の前で苦しむ人は救いたい。前向きに生きる方法を提示したんだ。後は自身の頑張りで幸せになって欲しい。
この後、バルトを連れ教会本部に行った。彼の素性を確かめる為だ。きっと何かあると感じているのは、俺だけじゃない。アナマリア様は勿論、宰相も気になっていただろうしね。
◇◇◇
ファリス教総本部、応接室~
「ではバルト。貴方は何者ですか? あの地区に居るはずのない人間ですよね?」
「......仕方ありません。私の本名はロイタ-・バルトフェルトと申します」
「ちょっと待て! お主! ロンダ-ク王国の王国騎士ではないか!!」
え? 王国騎士? それにロンダ-ク王国って?
「スチュワ-ト宰相殿。もうロンダ-ク王国はございません」
「確かにあの戦争で統一されたとは聞いていたが......」
その戦争と言うのは、周辺の国々を統一したあのハ-メリック帝国に関わるものだった。ベールに包まれていた、俺達と同じ転移者の情報が聞けるかもしれない! はやる気持ちを抑えながら、続くバルトフェルドの言葉を待った......。
速水「かなり宰相にはご無礼を致しました」
宰相「本当だ、この国の者であったら拘束されるところだぞ」
アナマリア「そこは速水様ですので」
速水「アナマリア様のその従順さが怖い」
次話予告!
さて目の前に現れたのは、先の戦争で無くなった国の騎士だった。彼の口から謎の人物であった転移者の事が語られる。




