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宰相の相談 後編

速水と宰相は王都の現実を見るが......

 スラムを歩き辿り着いた家。そこには王都の抱える闇があった。目の前にある建物は風が吹き抜け、屋根は穴が空いていた。とてもじゃないが家とは言えない。


「ビリ-。お母さんは何処にいる?」


「こっちだよ」


 自身の家に帰り先程の勢いは何処へやら。沈んだ声で案内された先に、やせ細り寒さに震える女性の姿があった。


「こんにちは。突然の訪問をお許しください」


「ごほっ......こ、こんなところへ何用ですか?」


 なんとか立ち上がろうとする女性を慌てて止める。


「そのままでいてください。お身体に障りますので」


 女性の状態を確認しながらゆっくりと事情を聞いた。この女性はリザ。御主人は流行り病で3年ほど前に他界。それからは生きるために、ゴミの回収や糞尿の回収などで食い繋いでいた。しかし身体を壊し、寝たきりになってしまったらしい。動けない母親の代わりにビリ-が仕事にありつこうとしたのだが、周りも似た様な人間ばかり。結局は犯罪に身を染めるしかなかった様だ。


「ブラウン様。これがここの日常です。知っておられましたか?」


「いや、私も積極的に関わろうとはしなかった。まさかこれ程とはな」


 目の前の現実に目を背けたいのは、皆同じようだ。着いてきた衛兵たちもあまりの現実に、誰1人声を発する者はいない。スラムに足を運ぶ衛兵もいなかったんだな、きっと。


「相談なんですが、この家族を保護してください。少し考えがあります」


 この後、母親を衛兵たちが丁寧に移動させる。目的地は教会だ。城に連れ帰る事は出来ないので、孤児院のある教会に向かったのだった。



◇◇◇



 ファリス教アルメリア教会~


「失礼します。信頼雑貨の速水と申します」


「か、『神の御使い』殿⁈ 少々お待ちください!」


 声を掛けたシスタ-は驚いた様子で中に入って行った。待つ事数分で司祭と思われる男性が出て来た。


「『神の御使い』殿、良くお越しになられました。本日はどの様なご用件で?」


 彼はジョイ神父。事情を説明しベットをお借りできる事になった。ビリ-とその兄弟はシスタ-に任せ、ベットに寝かされたリザさんを見る。


「かなり衰弱してますね。どなたか、これで果物を買って来てくれませんか?」


 俺は衛兵の1人にお金を渡し、果物を買いに行ってもらった。症状的には栄養不足からくる脱水症状と、風邪をこじらしている様に見える。まぁ素人なので正確な診断は出来ないのだが。


「この世界の医療には間違いもありますし、高額すぎます」


「速水君。そうは言っても医者たちはそれなりの技量を持っているぞ?」


「私にはそうは見えません。聞いたところによると、彼らが診療するのは富裕層のみ。一般の住民は高額の診察料も出せず、下手をすれば亡くなっていると聞いています」


「それはこの国だけではないぞ? 医療にはお金がかかるんだ」


「先ずその考え方を改めて頂きたいですね。我々の世界では誰でも診療は受けられます。それに国が医療費の負担も行い、患者が支払うのは一部のみです」


 俺は保険制度の説明をした。宰相は興味深く話を聞き、何やら考え出した。その時、果物を買いに行った衛兵が帰って来たので、それを受け取り神父に声を掛けた。


「ジョイ神父様、コップとナイフをお借りできないでしょうか? 出来れば白湯(さゆ)もあれば」


 持って来てもらった白湯(さゆ)に携帯していた風邪薬を入れる。漢方の物なので身体に負担は無いだろうと思う。果物を小さく切って少しずつ食べさせた。あまり一気に食べさせても良くないので、休憩しながら食べてもらった。その後、風邪薬の入った白湯をゆっくりと飲ませ、そのまま寝てもらった。


「さっき白湯に入れたのは何だね? 薬なんだろうか?」


「はい。一般的な風邪薬ですね。我々の世界では街で手に入ります」


「そんなもの聞いた事無いぞ? いつもの医者は血を抜きよる」


 そうなんだ。医療について発言するには知識が無いんだが、血を抜くって言っても検査じゃない。悪い物を抜くと言う意味で行われているらしい。風邪ぐらいならしっかり栄養を取って、安静にしていれば滅多に重症化はしないんだ。予防には手洗いと()()()が必要だが。


「とにかく彼らはこちらにお願いして、一度城へ戻りましょうか」


「そうだな。詳しく話を聞きたい」


 神父にお布施をし、3日程度の風邪薬を渡した。朝昼晩の3回、先程と同じように食べ物を食べた後に、飲ませて欲しいと頼み教会を出る。




◇◇◇



 王城の応接室~


「それで先程の件だが......」


 俺は衛生環境が悪いと風邪などが蔓延する事。その状態でいれば、王都中に感染が広まる可能性にも言及した。その為には国が主導して、スラムに介入する事の必要性も強調しながら説明を行う。


「うむ、だがかなり大掛かりな工事になるぞ? それに労働力の問題もある」


「実際に下水工事を行えば、スラムの人間の仕事も奪う事になります。それならいっそ雇ってしまいませんか?」


「彼らをか? 何か出来る仕事があるのかね?」


「そこはお任せください。それとスラムに仮設住宅を建てましょう」


「仮設住宅? そんなものをどうして」


「今の状態では不潔です。それならいっそ潰しましょう。そして彼らが住める場所を提供すれば、暴動も起きません」


「しかしひと筋縄では行かんぞ? その点は考えておるのか?」


「お忘れですか? 私は『神の御使い』ですよ?」


「ま、まさか教会を動かすつもりなのか?」


「ええ。幸いスラムの人間もファルス教は信じてるでしょ? それなら手を貸して頂きますよ」


 俺の秘策は教会も巻き込む事だ。すでに『神の御使い』として宣伝されているし、こちらも教会を使わせてもらわないとね。


 この後、保険制度の話も再度行い、国の会議にかけられる事になった。後は、アナマリア様と話だな。


ハッキリと物を言う速水に宰相もやや押され気味だ。速水はファルス教を巻き込むつもりのようだが、

そう上手く行くのだろうか?

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