露店を出そう♪
手探りでの異世界生活。さてさてどうなりますやら
翌日の朝、会議室ではマリアさんの講義が始まっていた。経営する孤児院で教えているだけあって非常に解りやすい説明で、内の社員たちも時折質問をしながら、穏やかな雰囲気で朝の部は終了した。昼からの講義まで時間があるので、マリアさんにお昼を一緒にと提案すると猛烈に感激されたので、食堂に案内した。
◇◇◇
「これが、あなた達が食事する所なのですね‼」
「え、ええ。そんなに珍しくも無いと思いますが……」
「こ、このテーブルなんて素敵なのかしら‼ 足の部分は鉄なのですか⁉」
「そうですね。こちらの世界では珍しいかも知れませんね!」
こんな感じで、マリアさんは興味津々だった。今日のメニューは、カレーだったんだが、おかわりするぐらい気に入ったようだ。俺の想像するシスターは、物静かだったんだが現実は……。まぁこんなもんだ(笑)
食事を終えた後は内の社員たちに囲まれ、質問攻めにあうマリアさん。既に人気者になっていたようだ。
俺は、食堂を離れ会議室へ向かう。今日は、街に露店を出す計画の打ち合わせなんだよ。
◇◇◇
「では、露店プロジェクトの全体会議を始めよう」
議長は、高橋課長だ。補佐として中村さんが、資料を配り始めた。
「では、営業部から速水! 資料の1枚目を説明してくれ!」
「はい。では、表題の露店プロジェクトの中身なのですが、報告しましたように、この世界の生活水準は決して高くありません。そこで、まずは日用品から販売してみようと考えています」
「ちょっといいか? 日用品と言っても何を売るんだ?」
そう発言したのは、品質管理の岡田さん。実際に街を一緒に見た人だ。
「はい。まずは、木製品のナイフ・フォーク・スプーン・コップなどを考えています」
「うーん。速水、それやとインパクトが少なないか? はじめやし、目ぇ引くもんが無いと厳しいやろ」
「田村、何か良い案あるのか?」
「ただ、販売するだけじゃなく、次も来てもらえるようにチラシと粗品つけたらええんちゃうかな?」
「それは、俺も考えていたんだ。幸い電力もあるから、宣伝用にチラシを作って街の人に配る。その時にライターなんかを付けて配ろうかと。この世界、火に関して困っていると思うんだ」
「速水、それだと在庫を配る事になるぞ? この先の事も考えてるのか?」
この発言をしたのは、工場部門の佐々木さん。倉庫の在庫管理をしている人だ。
「ええ。いずれ無くなる物なので、僕らもこの世界に慣れる必要があります。それに鉱物などの取引が出来るようになれば、工房の方と相談して何か作れるかも知れません。一時的に損をしても……」
こうして会議は、進んで行く。色々な意見を取りまとめて行くと、大筋で案がまとまった。その内容は、
1.販売前に、チラシを制作⇒総務部が担当。
2.チラシ配布 ⇒営業部が担当。
3.1週間毎に販売する商品を変える。常に街の情報を集める必要性がある。⇒販売部と経理部で統計を取る。
4.販売する商品は、社内アンケートで意見を聞いた上で選定する事。
5.露店の設営に、キャンプ用品を使用する等。(設営は、工場部門)
とまぁこんなものだ。実際、手探りだし細かく決めても修正箇所は出て来るので、フリーマーケットに出店するつもりで準備を進めて行く。並行して、販売部と経理部が協力して街に情報収集に出かけた。いつまでも限られた人間だけが出歩くと、ストレスの原因になるしね。防犯を考えて1人での外出は、禁止というルールは守ってもらう。俺達の日本は、平和すぎて危機感が無いんだよね。この辺りは、何かある前に皆の意識を変えてもらわないといけない。準備に10日程かけて、いよいよ準備が整った。
◇◇◇
街の中央通りの一角に大きめのテントが組みあがった。全員、法被を着ている。田村から浴衣というナイスな提案があったが、その目論見は女性社員の冷たい視線で中止になった。見てみたかったんだけどな……。残念です!! それはさておき、初めての露店は開店だ。
「はいはい! 信用雑貨株式会社の初出店だよ! そこの奇麗なお姉さん! 可愛いお嬢ちゃんも見て行っておくれよ!」
田村の元気の良い掛け声が街に響く。物珍しさと皆で配ったチラシの効果もあり、かなり多くの人が集まって来た。価格も今回は初日なので、セットで銅貨1枚と街の人が手を出しやすい値段設定にしてある。使い方も岩さんが軽食を作って実演販売。100セット準備した商品も飛ぶように売れて行く。開店から半日で、用意した全てのセットが完売した。そんな感じで露店出店1日目は、盛況のまま無事に終了した。
◇◇◇
「さて、本日は、皆お疲れ様。無事に販売できて今日は成功と言って良いだろう。だが、反省すべき点もあったと思うんだがどうだ?」
「はい! 高橋課長。私から意見を述べて良いですか?」
「中村君か。何だね?」
「今日は皆さん初日という事で、物珍しさもあったと思います。ですが、明日も同じとは限りません。そこで何ですが……」
中村さんの提案は、とても納得できるものだった。さぁ、明日も頑張ろう! 皆で初日の成功を祝い少しお酒なんかも飲みながら食事をとった。さて、露店2日目はどうなりますかね。
無難な1日目が終了。ここからが、商売の腕の見せ所です。中村さんの提案とは?