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衝撃の事実と深まる謎 後編

受け入れがたい事実に困惑する一同だったが......

 サリナさんから聞いたサヨコさんの最期は、俺達にとって衝撃だった。消えた事もそうだが、寿命を全うするまでこの世界に居た事実。この二つが俺達の気持ちを沈んだものにした。


「やはり驚かれますよね。祖母も年老いてから、帰りたいと申しておりました」


「サヨコさんのお気持ちは、私達もわかります。我々も受け入れがたい事実でありますし」


「こちらが祖母の残した日記です。私達では読めない字で書かれておりまして......」


 沢田専務がサリナさんから受け取った、サヨコさんの日記。日本語で綴られた日記には、この世界に来てからの苦悩が書かれてあった。彼女は昭和17年に大阪で生まれたらしい。女学校を卒業する間際に、この世界に突然招かれた。当初は訳が分からず、死のうとも考えたらしい。だがこの世界の住民達に、保護してもらい何とか前向きになった。自身の出来る事を考えた時、食糧難に苦しむ住人の為に小麦を利用した食品を作る事を思いついた。日本に居た頃もパン等を作っていた様だ。その時代にしては、実家が裕福であったらしい。


「ここに書かれているのが、サヨコさんの生涯なんですね」


「ああ。昭和17年と言うと、戦争が終わる前にお生まれになったようだな」


「この年代の人で18歳と言うと、結婚も考える年頃だろう」


「しかしお一人でこの世界に来た時は、不安だったでしょうね」


「私なら怖くて外にも出れないわ」


「静香と同じく、私も無理だよ。せめて知り合いの1人でも居れば......」


 日記を読み進めて行くと、サヨコさんは日頃から夢を見ていた様だった。その夢の内容に俺達は驚いた。彼女は自身に起こる事を先に見ていた様なんだ。


「これは予知夢何でしょうか? 夢と同じ事が起きたと書いてますね」


「うむ。自身に起きる事が分かったようだな。御主人との出会いも、夢で見ていた様だ」


 サヨコさんは何度も夢を見、危険を回避していた様だ。当時は他国と戦争もあり、この街にも戦禍はあった。しかし夢でこれから起きる事が分かり、生き残れたと書かれてある。しかし御主人が亡くなる事も夢で見てしまった様で、その部分の日記は涙の跡で読めない状態だったよ。


「何て事なの! 自分の旦那様が亡くなる事が分かるなんて!」


「こんなの普通で居られる訳ないじゃない! 酷いわ!」


 中村さんと花崎さんは、泣きながら叫んでいた。大切な人が亡くなるのが分かるって、どれだけ辛い事だろうか。何故、これ程過酷な運命を背負わされたんだろう? 俺達は悲痛な気持ちになりながら、日記を読み進めたんだ。そして日記の最後の2ぺ-ジまでたどり着いた時、またも驚かされた。そこには俺達に向けたメッセ-ジが書かれてあったんだ。


―――私と同じ日本から来られた皆様へ。あなた達が此処に来られた時、私は既に亡くなっているでしょう。不思議な事にあなた達が此処に来る事も、夢で見て知っていました。私の生涯を知り困惑するでしょうが、決して諦めないでください。この世界にあなた達が呼ばれた事には、意味があります。この世界が求める事を成した時、貴方たちの役目も終わるはずです。またお会いしましょう。伊藤 小夜子。



「これは⁈ 俺達が来る事を知っていた?」


「この人には不思議な力があったようだな。しかしこの世界が求める物って?」


「最後のまた会いましょうって、どういう意味?」


 皆で色々と考えたが、このメッセ-ジを理解する事は出来なかった。サリナさんも驚かれていたよ。ご家族で夢を見る人が居ないか聞いてみたが、そのような事は無いと言っていた。俺達も聞いたことは無いが、会社に帰ったら全員に確認する必要があるな。日記は大切な形見なのでお返しするはずだったんだが、サリナさんのご厚意で俺達が預かる事になった。きっと何かの役に立つと思いますって......。



◇◇◇



 その後、俺達は一度宿に戻った。ここまで来て得られた情報は、すぐには受け止められそうにない。しかしサヨコさんからのメッセ-ジは、俺達にとって前向きになれるものだった。それにもしかしたら、ハ-メリック帝国の日本人が生きている可能性もあるんだ。


「帰ったらこの事を皆に伝えて、今後の事を話し合わないとな」


「そうですね。一体我々に何を求めているのか?」


「ただの異世界転移やなかったんやな。驚きすぎて疲れたわ」


「蓮見君? どうした?」


「いえ、少し考え事をしていました。私達が呼ばれた意味を......」


「この世界を発展させる事なんじゃないでしょうか?」


「静香もそう思う? 私も同じこと考えてたわ」


「過去の転移者も、農業の発展に尽力してましたよね?」


「せやけど、1人は戦争に加担しとるで?」


 ただ単純に日本の文化を広めたり、技術の発展に貢献するだけでは無いのかも知れない。すぐに答えは出ないので、一旦この話は各自で考える事になった。メルボンヌの街には3日程滞在する予定なので、明日はこの街を見て回るつもりだ。何かヒントがあるかも知れないしな。


 驚かされっぱなしの1日は終わった。一体、俺達は何の為に呼ばれたんだろうか―――

日記の情報が速水達に希望をもたらすのか? 

次話は、メルボンヌの街に根付く日本文化。

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