宰相の思惑 後編
突如訪問した宰相。彼は何を考えているのだろう?
突然訪問してきたこの国の宰相ブラウン。果たして何を思っての行動なのか? 対応する沢田と清水も相手の真意を測れずにいた。
「我々の事を国が保護ですか? 一体どう言う事なのでしょうか?」
「うむ。国王としても君達の存在が、この国に与えるであろう『幸福』に期待しているんだ」
「そうは申されましても、過度なご期待に答えられるかどうか......」
「しかし現に時計や名刺等、この国に無かった物を出しているではないか。それに此度の下水道工事も、君達が提案したのだろう?」
「今おっしゃられた内容については、その通りでございます。私共の考えられる範囲で、この街がより良い姿になればと思っております」
「そうか。では尚更、期待させてもらおう。それにしてもこの建物も不思議だな」
「ご期待に沿える様に力を尽くします。既にご存知かもしれませんが此処の敷地と建物は、私共の世界の物でございます」
「過去に現れた者達と同じという事だったな。できればこれまでの事を聞かせてくれないか?」
そうブラウンに問われたので沢田と清水は、転移してから現在までの事を詳しく説明した。その話をしながら、ブラウンからの質問にも答えた。ブラウンも我々の持つ知識や商品に興味が出てきたようだ。終始穏やかな会談が続いていたのだが、そこに花崎が報告に来た。どうやらライアンがこちらに来たようだ。
た。
「そうか、ではこちらに案内してくれ」
「グランベルク卿は、きっと慌てておるだろうな」
楽しそうに笑うブラウンに、この人結構いたずら好きなんじゃ無いかと思う沢田だった。しばらくして入って来たライアンは、肩で息をしていた。余程急いできたのだろう。
「ブラウン殿! まさかこちらに直接向かわれるとは思いませんでした」
「グランベルク卿。私の目で見たいと思ってね」
「ふぅ。そうでしたか。それでブラウン殿から見てのご感想は?」
「そうだな。彼らは謙虚さを持ち合わせておる。そういう人間は、信用に値すると思っている」
「それを聞いて安心しました。私も彼らの事は、信用しておりますので」
「それにしても、グランベルク卿は運が良いな。彼らの恩恵を直に受けれる」
「はい。その通りですね。彼らのおかげで、この街に活気が生まれ住人にも笑顔が見えます」
「丁度いい。グランベルク卿、国として彼らを保護する事になったのだよ」
「と言いますと彼らを王都へ?」
「いやそれは無い。彼らに対し危害を加える事は、国王への叛意と同じ意味という事だ」
「なんと! 国賓並みの対応ですね。わかりました、私もそのつもりで接します」
その話を聞きながら沢田は思う。えらい事になったと。隣の清水も額の汗をぬぐっていた。
「おっと、ブラウン殿に報告があるのですよ」
「何だね、グランベルク卿」
「実は彼らが馬車を改良したのですが、乗車しての移動が可能です。走行中の揺れも少なく乗り心地も素晴らしいのです」
「何だと⁈ それはすごい事ではないか! 要人の移動にも使えそうか?」
「ええ、本当に画期的な物です。今乗って来ておりますので、一度お試しになっては?」
ライアンの提案に対しブラウンもその気になった。そして敷地の外周を2人で回っていたのだが、馬車の車内でブラウンが改めて彼らの事を聞く。
「グランベルク卿は、彼らがもたらす物は何だと思う?」
「そうですね。彼らはこの国だけではなく、この世界を変える何かを持っている様に思います」
「と言うと? 何か具体的な物はあるのか?」
「外から見れば、彼らの持つ商品に目が行きます。しかし違った側面から見ると、彼らの知識から生まれる新たな試みが何かを変える気がするのです」
「ふむ。確かに今回の下水道工事もそうだが、マスクという物や手洗いなど病に関する知識も持ち合わせている様だな」
「そうですね。医療の知識は無いと言っていましたが、それでもこの街の住民が病を予防できる意味は大きいですね」
「それと時計だ。サダラーク卿からも聞いたが、時間を管理する事で1日当たりの効率も上がったらしい」
「そうらしいですね。それに加え職人たちの話では、電気なる物も生みだそうとしているようです」
「電気? 何だねそれは」
「何でも人の力を使わずに、機械などを動かす力だとか。そのような物があれば、この国の発展は目覚ましい物になるでしょうね」
「やはり文献の『幸運の君』という言葉は、間違いないという事か」
「それにお気づきですか? 今、私達は馬車に乗っているのですよ?」
「......そ、そうだったな。あまりに揺れないから忘れておった。この乗り心地であれば、長距離の移動でも苦にならん。是が非でも国王に進呈せねばならぬ」
馬車での会話はこの後も続き、ブラウン自身も転移者の力を充分に理解した。国王の判断は間違いなかったのだ。彼らがこれからもたらすであろう未来に希望を見た。この後、工場を見学し更に驚くことになったのだが......。
ブラウンはグランベルクに滞在中、毎日のように信頼雑貨株式会社に出向いた。彼の目は子供の様に輝いていたよ。そして何より新しい馬車が気に入り、自身の馬車を改造してくれるよう頼んだ。勿論、二つ返事で快諾した我らが工場の職人たちは、ブラウンが王都へ帰るまでの2週間で改造を完了。沢山の手土産と共に王都へ帰って行った。ブラウンは国王の判断に懐疑的だったのだ。しかし自身の目で見て、己の考えを変えたようだ。
王都へ帰ったブラウンは、国王に対し自身の考えを報告。改めて全ての貴族に対し、信頼雑貨株式会社への干渉を禁止した。
自身の目でその力を見た宰相ブラウン。彼らの生みだす物がこの国を変える未来を見た。
次話は受注ラッシュ。




