井戸の開通と馬車の完成
とうとう井戸が開通した模様。
ここに来てようやく水問題に解決が見えた。多くの人員を雇い入れ敷地内を掘った結果、水源を見つける事が出来た。合計で3ヶ所の井戸から水を汲み上げ、水質を確認すると驚くほど良質の水だった。どうやら山間部から地中に流れ込んだ雨水が、自然ろ過を重ねて上質の水源が生まれていた様だ。
「いやぁ-、これ程の水が出るとは思いませんでしたね」
「来栖君。これで当面は心配無いな。後は給水タンクに移すための仕掛けだけか」
「蓮見さん、それについては昨日届いたゴム板を使って引き上げる方法を試してみます」
「と言うと? ポンプの原理を使って水を上げる方法かね?」
「ええ。その為に一旦ゴムを溶かして、加工しなければなりませんが」
言葉では説明しにくいのだが、先ず鉄製パイプを必要な長さで準備する。その中にパイプの円周に近いゴム製の弁を紐に均等の間隔で付ける。それを引き上げる事によって水を上方へ流すんだ。これはポンプの原理を利用しているので、水洗便所を作る際にも使用する事になる。
「井戸用のポンプも外観は出来上がっていたな。そっちにも必要だろう?」
「ええ。同じ用途ですから急ぎ作ります。ちょっと不純物のろ過に時間が掛かりますがね」
「それを怠るとひび割れてしまうからな。それにパイプラインの接続部にも使うんだろ?」
「そうですね。今は毎日のようにゴム板が届いてますから、そっちにも人手が要りますよ」
「それなら沢田専務にお願いして、今まで井戸を掘削してもらった人達をそのまま雇入れるか」
「工事が始まるまでは、出来るだけ知っている人間が良いですよ」
会社も資金が潤沢では無いのだが、ライアン男爵から名刺の受注と今回の工事の代金が入って来るので、出来るだけ街に還元する事が社内会議で決まっていた。元々会社の考え方が、『顧客満足で会社も潤う』なので反対は無かった。それと井戸が出来る時期と並行して、改造中の馬車も試作品が出来上がっていた。
「来栖君。馬車の方も試作型が出来上がっていただろう」
「ええ。馬を借りて来たんで、繋いで振動検査ですね」
「やはり職人の手が増えると、作業スピ-ドが違うな」
「あいつらも職人ですからね。技術の吸収が早いですよ」
この世界の職人達も、新しい技術を学ぶ事が楽しくて仕方ない様だ。熱中しすぎて、食事も忘れるのが問題なのだが。実際に今の職人の数は、抱える案件に対してみても多い。街の水道工事が始まれば丁度良い数なのだが、工場には作業を食い入るように見る職人も日々増えている。中には無給でも良いと言う人間もいるが、会社としてそれは出来ない。そこで現在、新しい作業場所も建築する事が決まっていた。
「蓮見君! 馬車の方が出来上がりそうなんだって?」
「沢田専務、お疲れ様です。これから振動検査ですね。これが成功すれば、自社で新しい馬車を製作します」
「そうか! 男爵のお墨付きが出れば、馬車の製作も依頼が入るだろうな」
「そうですね。ただそうなると、うちだけでは無理だと思うんですよ」
「その辺りは、職人を雇っても良いんじゃないか? 新たに作業場を作るんだろう?」
「ええ、構想ではライン作業を取り入れようかと思っています。ただ電力の関係で、あまり多くの機械は使えないんですよね」
「確かにな。電力に関しても考えないといけないか。だが科学の発展していないこの世界で、どの様な手があるか......」
「風力発電か水力発電。火力発電は燃料の問題がありますし、火災も怖いですからね」
「磁石はあったんだろう? それなら発電自体は可能だろう」
「よくご存じですね。コイルの間で磁石を回転させれば電気は発生します。ただコイルの生産と銅線が上手く作成出来ればの話なんですよ。銅の採掘場で良質の物が手に入れば良いんですが」
発電機は上下のコイルの間で、磁石を回転させる事により電気を生むんだ。風力発電なら風の力で、水力なら水の力で磁石を回転させるのだが、安定した電力を得る事は難しいだろう。それにガラスを作れないと話にならない。広い作業場には電球も必要なんだ。
「商業ギルドに問い合わせて、ガラス製品を扱っている商会を探そうか」
「そうして貰えると助かります。電球は色々と知識が要りますが、見本もありますからね。物さえあれば近い物を作って見せますよ」
「頼もしいな。蓮見君も昔に戻って来たんじゃないか? 顔が生き生きとしているぞ」
「若いもんに当てられてますかね。俺の腕も鈍ってないですよ?」
この世界にやって来た当初は、先行きの不安もあり気持ちが下がっていた。しかし転移者の情報があったり、街の住民や職人達との交流で考え方が変わったのだ。生きる為に出来る事をする。単純な様だが、そうすることで人の気持ちは変わるのだ。
男爵の馬車の改造は何度かの修正もあったが、性能的にも満足のいく仕上がりになった。試験的に隣街まで使用するとの事だったので、工場の職人が数名同乗させて貰えた。実際の運行で不備があれば対処する為だ。その結果、この馬車は大変好評だった。男爵からもお褒めの言葉と過分な代金を頂くことになり、社員からも工場に対し喝采が上がった。
馬車が改造できたことにより、例の遺物を確認する為の馬車を製作する運びとなる。完成まではまだ時間が掛かりそうだが......。次話は、宰相がやって来たようです。




