帰りの道で思わぬ出会いが......
さぁ帰ろう。
王都からみんなの元へ帰る事が決まった。皆への土産は、中村さん達女性組の意見で衣料品にした。女性の下着関係は、王都という事もありそれなりの数が揃っていたようだ。この辺りは、俺や田村では絶対気が付かないだろうな。俺達も何かないか? と思ってはみたものの、食料品も目新しい物が無いので、公爵様から頂いたこの世界のお菓子(乾物)で勘弁してもらおう。名刺の代金は男爵経由で、街に帰ってから頂く事になっている。護衛が居るとは言っても、持ち運ぶのが怖いからさ。
「それでは、グランベルクの街へ向けて出発しよう」
ライアン男爵の号令で帰路に就いた。帰りは俺と田村の分の馬も調達してもらったよ。歩くのにも馴れたとは言え、往路の様に襲撃が無いとは言えないからさ。最悪、荷物を捨てて逃げる事も考えないと。
「それにしても速水、ちょっと代わってんか?」
「ん? 何を代わるんだ?」
「何とぼけとんねん! お前だけなんで女子の護衛に乗せてもらってんねん!」
「はぁ......たまたまだろう。倉木さん居るのにそんなこと言ってて良いのか?」
人数で割った結果、本当に偶然に俺を馬に乗せてくれたのが女性の護衛だったんだ。ちょっと得したけどな。
「そ、それとこれとは別の話やないか! 倉木さんには、黙っといてや!」
「はいはい。喋ってたら落っこちるぞ!」
そんな事を喋りながらも帰りの道程は順調だった。帰りはバ-ンの街には寄らず、フィリップスの街まで一気に進む。ここまでは問題なく進めたので、予定より少し早めに街の入り口まで到着した。コックス準男爵への挨拶は、ライアン男爵に任せて俺達は宿をとった。前回同様、宿泊場所など用意して貰えなかったからな。貴族間の関係は、本当にはっきりしているんだ。敵対派閥の関係者には、優遇しないんだよね。
「はぁ、良かったわ。ちょっとドキドキしてたから」
「静香。緊張しすぎよ。行きより護衛の数も増えたんだから、そうそう襲って来ないと思うわ」
「千鶴、そうは言ってもやっぱり怖いよ」
「私もやっぱり怖いです。早くみんなの元に帰りたいです」「私もだよ。帰りが遠いよ」
「愛も美樹もそう思うよね。千鶴の気の大きさを見習わないといけないわね」
宿について皆ほっとしていた。田村も俺の横で寝転がっているよ。ただ、俺は気が抜けなかった。この街は、サダラ-ク公爵の派閥とは敵対関係の貴族が治める街だ。それに男爵もこの場に居ないから、護衛の方達しか頼る事が出来ないしな。
「なんや、速水。宿着いたんやからゆっくりしぃや」
「ああ、わかってるよ。ちょっとまだ気が抜けないだけだ」
「ははぁ-ん。あの護衛のお姉さんの事でも考えてたか? あかんで浮気は!」
「はぁ? そんな事考えてないよ。別の事だよ。だいたい浮気ってなんだよ?」
「はいはい。そういう事にしといたるわ。はよ飯食って寝ようや」
その後、宿にある食堂で夕食をとっていたんだが、そこに1人の男がやって来た。
「食事中にすまない。あなたたちは、グランベルクの商会の人じゃありませんか?」
「え? 何か御用でしょうか?」
その言葉を聞いて護衛の方々が俺達の前に立つ。何だ? 何故俺達の事を知っているんだろう?
「おっと。何か誤解されている様だ。見ての通り武器等持っていませんから。私は、この国で行商を行っているパルマと申します」
俺は少し興味が出て来たので、護衛の方達に下がってもらった。商売の匂いがしたんだよ。
「これはどうも。しかし何故私達が、そのグランベルクの商会の人間だと思ったんですか?」
「行商を行っていると色々な情報が入って来るんですよ。それにその黒髪です」
「そうですか。別に隠すつもりも無いんですが、ちょっと色々とありましてね。私は信頼雑貨株式会社の速水 慎一と申します。パルマさんでしたか? よろしくお願いします」
「ほぉ、これが例の名刺という物ですな。うむ、確かに上質の紙を使用している」
その後、パルマ氏から色々と話を聞いていると、行商人の間で俺達の商会が噂になっている様だ。扱っている品物も人伝に手に入れたい人も多くいるらしい。パルマさんもグランベルクへ向かっているようで、同行を求めて来たんだが、男爵に了解を得られたらと条件付きでOKを出した。物の流通に関して言えば、付き合いは多い方が良い。パルマ氏の商会は扱う品も多く、この国ならどこにでも出かけているらしい。俺達の商会と仲良くしたい行商人も多いらしいので、何人か紹介してもらって話を聞いてみるのも良いかもしれないな。緊張した夜になるかも知れないと思っていたが、パルマ氏と会ったおかげで気がまぎれたよ。
翌朝、ライアン男爵と合流してパルマ氏の同行の話をしたら了承を得た。ライアン男爵とも面識があったようだ。この世界、流通に関しては行商人の力が大きいらしい。交通手段が限られているので、手紙なんかも行商人が各街へ届ける役割をしているようなんだ。思わぬ出会いもありながら俺達の帰路は続く。
帰る道のりは遠い。新たな出会いもあったが、何事もなく帰れるのだろうか。




