王都までの道のり~迫る脅威
さて2日目、何やら起こるようです
次の街であるフィリップスに出発した俺達は、王の道と呼ばれる街道を進む。昨日の移動でも感じたが、現代のアスファルト舗装は偉大だ。この世界の街道は、道として整備されてはいるが、平らな道ではないし歩きにくい。馬車も車輪の上に箱が乗ってるだけみたいな構造だから頼りない。
「なぁ、速水。まだ怒ってるんか?」
「当り前だ! 俺は根に持つんだ!」
「すまんかったって。何回も謝ってるやないかぁ-」
本当はもう怒ってないが、お灸を据えないと田村はすぐ忘れるんだ。昨日頑張った甲斐があったのか、今日の移動は良いぺ-スで歩けている気がする。なんて呑気に思っていたんだが、そんな時間は覆される。
ヒュン! ヒュン! ヒュン!
「な、何だ!! 伏せろ!!」 「男爵様を守れ!!」 「馬車の荷を守れ!!」
俺達に向かって矢が放たれたのだ! 突然の事にパニックになる俺達だったが、男爵を守る護衛の方達は冷静で、素早く前に出て防御の陣形を整えた。うちの女性達も馬から降りて、護衛の方達に守ってもらっている。その姿を確認して安堵したのも束の間、俺達を囲む様に武器を持った集団が現れた。
「積荷と女共を置いて行け! 抵抗する奴は生かしちゃおかねぇ!」
「貴様ら! どなたの一行に手を出しているのか分かっているのか?!」
「どこぞの貴族様だろうが! そんな事俺らには関係ねぇ!」
「そうか、ならば後悔するがいい!」
突如始まった戦闘に正直言ってビビっていた。目の前に剣を突き出し殺気を放つ集団。まるで映画の世界のようだ。足がすくんでその場から動けないでいた。そんな俺の肩を叩き、正気に戻したのは田村だった。
「速水! ビビってる場合やない! 護衛の人達の邪魔にならんようにせな!」
「す、すまん」
そう言って周囲を冷静に見ると、人数も練度もこちらが明らかに上回っていた。女性の護衛の方も動きが機敏で盗賊と見られる男たちよりも動きが良い。浮足立っているのは、俺達だけのようだ。盗賊達との戦いは、終始こちらが優勢に進んだ。囲まれる直前に何名かの護衛が街道沿いから離れ、弓を放った者を始末して裏をかき、盗賊の後ろから急襲できた事が戦況を左右したようだ。素早い状況判断が出来る優秀な護衛の方々によって、盗賊達は始末された。しかし人が目の前で殺されるという現実に、俺達商会の人間は頭が追い付いていない。倉木さんと安田さんは、恐怖のあまり失神していた。盗賊の遺体を調べていた方達が何やらライアン男爵に耳打ちしていたが、俺達には何も教えてはくれなかった。ハプニングのせいで時間が押している為、重い足取りを無理やり急がせフィリップスの街へ移動が再開された。戦闘の記憶を思い出さない様に無我夢中で歩いたせいで、フィリップスの街に着くまでほとんど記憶が無い。日が暮れるまでに到着出来ただけ良かったのだろう。フィリップスの街はレオナルド男爵と同じ派閥の、コックス準男爵が治める街だ。男爵には宿泊場所が準備されたが、俺達には無かったので急遽宿をとった。幸いな事に護衛の方も俺達全員同じ宿が取れたので、皆で食事を取りいっぱい話をした。皆、空元気ではあったが、少し笑顔が戻って来たようだ。その夜は街にある宿屋なのに不安を感じて、中々眠れなかった。
翌朝、眠い目を擦りながら食堂へ行くと、男爵の護衛の方が来ていた。男爵からの伝言を伝えに来てくれたようだ。
「朝早くからすまない。大きな声では話せないが、昨日の襲撃にこの街の領主であるコックス準男爵が絡んでいる可能性がある。各自、朝食を取り次第早めに出発したい。以上だ」
その話を聞いて昨日の現場を思い出した。確か男爵に何か耳打ちをしていたはずだ。俺達は急ぎながらも食事だけは抜かずに食べて準備を済ませた。体力を削られては移動に差し支えるからな。
「速水君。貴方は大丈夫なの?」
「中村さん。昨日は流石にほとんど眠れませんでしたが、大丈夫ですよ。女性達の方が心配です」
「私達もあまり眠れてないけど、移動は馬だから大丈夫」
「お互いに注意しましょう。昨日の事もありますから」
そんな言葉をお互いに掛け合ったんだが、少しの胸騒ぎを感じているんだ。どうもきな臭い事に巻き込まれている気がする。そんな不安を抱えながら、王都の手前の街であるバ-ンの街へ出発した。
今日の移動は昨日の事もあり、皆一様に暗い雰囲気だった。周囲への警戒に神経を尖らせていると、普通の移動より倍疲れる。移動自体はスム-ズに進み、もう間もなくバ-ンの街が見えてくるはずだ。次の街はクラ-ク伯爵の派閥の方が治めている街なので、宿泊場所も用意してあると聞いている。身体は疲れがピ-クに達しているが、街に着きさえすればゆっくり休憩できるので、足取りも確かだった。日が傾きかけた頃、バ-ンの街に到着出来た。無事に街に入れた事で、皆の表情にも笑顔が見える。本来はこの街を素通りするつもりだったのだが、急遽伝令を出したらしい。俺達も疲れていたので助かった。
この日の夜、ライアン男爵から一連の騒動の見解を聞くことになったんだが、その中身は今後の俺達にも避けては通れない内容だったんだ……。
いきなり襲われたり、目の前で斬った斬られた何か見るとトラウマ物ですよ。
やはり貴族間の争いに巻き込まれる速水たちは、この事にどう対応していくのか?
まずは、王都に到着してからですかね……。




