朝起きたら囲まれている件
本日は2話投稿します。
さて、この話はどういう方向になりますやら…
翌朝、騒がしい声で目が覚めた。
「何だよ? こんな朝早くから」
「速水! 何、寝ぼけてんだよ! 良いから早く外を見てみろって!」
まだ頭が起きていなかったんだが、窓から外を見てバッチリ起きました。まぁこうなるよね?
俺の目に入ったのは、鉄の鎧を身に付けた沢山の兵士達だった。あーあ、完全に囲まれてるよ。会社の建物を包囲するように、兵士達が配置されていた。
これどうするんだ? と考えていたんだが、アレは、沢田専務か? 入口から出て行ったのは、今の会社のNo.2である沢田専務と清水部長だった。いきなり剣を突きつけられて、若干腰が引けていたが……。
◇◇◇
「いったい何事かね? こちらに戦う意思はない。出来れば代表者と話したいんだが?」
「ほう、肝が据わっているようだな。私が、この街グランベルクの衛兵隊長、リチャード・ノーチスである。貴公らはどうやって、この様な建物を一夜にして建てたんだね? 」
「私は、代表者の沢田 智紀だ。申し訳ないんだが、その質問に答える事が我々にはできないんだ。何故なら私達が解っていないのだよ」
そこで、沢田専務と清水部長により事の経緯が話されたんだ。しかしあまりに突拍子も無い話なので、何度も同じやりとりが行われた。だがグランベルク側も、今の状況から信じる他なかった様だ。
一度領主と相談すると言う話になり、引き上げて行ったんだが、その1時間後には街からの伝令の人がやって来て、明日ここの領主とこちらの代表で会談するという話になった。
◇◇◇
その頃社内では...
「見ろよあの格好。アレは映画に出てくる感じだな。西洋の鎧に似ている。現代では考えられない格好だ。それに飛び道具も見当たらない。これはいよいよ異世界召喚ってやつを信じないと行けなくなったな」
俺がそう言うと、周りにいた大半の社員が頷いていた。皆も色々考えたんだろうが、受け入れないと前に進めないからなぁ。女性社員は固まって、何かヒソヒソ 話し込んでいた。その中には中村さんも居る。きっとあの人が上手いことやるんだろうな。そんな風に周囲を見ている俺に、声が掛かる。
「速水、ここにおったんかいな。さっきのなぁ、偉いさん同士の話聞いたか? 皆、不思議に思わんのかいな? 何で言葉通じとるんや?」
そう田村に言われて初めてその事に気がついた。確かに相手はどう見てもヨーロッパ系の人相だ。日本語しか話せない専務や部長が、普通に会話していたんだよ。
「これは、アレや。異世界補正ちゅうやつやな」
「何それ? 勝手に言葉が伝わるって事か?」
「簡単に言えばそうやな。この場合は、普通に喋っても受け取る側の言葉に変わっとんのや。そうなると、俺らにとってもええ話やわ。向こうさん相手に商売できるやろ?」
「なるほどな。確かにこれからの事を考えたら、食べ物もすぐに無くなるしお金も必要になってくるか」
「そうや! そこで、速水の出番やがな。営業部が率先して動くべきやと俺は思うんやけど?」
「そうだな。じゃあとりあえず、高橋さんに話してみようか。工場の方にも話通しておかないとな」
俺と田村は、高橋課長の元へ向かった。専務達がどんな話をするにしても、こちらが主導権をとれる材料が欲しい。
◇◇◇
「高橋課長! 今、お時間よろしいでしょうか?」
「ん? 速水どうした?」
「明日、ここの領主と会談するにあたって、良いことを思いついたんですが…」
「わかった。会議室で聞こうか」
会議室で田村と話した内容を高橋課長に話すと、すぐに動く様に指示された。流石に判断が早いねうちの会社! 各部署に通すと皆の目の色が変わったよ。これがうちの良いところなんだ。商売の話になると目の色が変わるんだよ。
明日の約束の時間までになんとか形にしないと。田村が言うには、俺達が普通に使っている物でもこの世界では重宝されるらしい。小売先に卸す商品を倉庫から引っ張り出して、皆であれこれ意見を交わしながら何とか纏まった。さぁ、どんな反応になるか楽しみだ。領主には今回は、贈答する事にする。恩を売っておかないとこの先何が起こるかわからないからな。それと商品の製造について工房からお願いされた事がある。鉄等の素材がないと制作できない物もこれから出て来るので、そのあたりの話も聞いて来いとの事だった。俺もその点が頭から抜けていたからちゃんとメモしておいた。制作チームもやる気満々なようだ。
いきなりこんな事になっても商売になると活き活きする俺達は、ちょっとおかしいんだろうか?
女性社員でさえ仕事になると自ら動き出してるんだもん。俺も気合が入って来たよ!