世界中で起こる変化と聖女達の会合
速水は懐かしい国々の事を回想する
グ-テモルゲン王国の開発は、かなり順調に進んでいる。
国内での混乱もあの事件以降、国王派貴族の尽力もあり概ね平穏だ。
速水も支社の立ち上げ等、多忙な日々を過ごしていた。
「えっと。今日は周辺国の支部と会合だったな」
「慎一さん。今日来るメンバ-の中に、ジュ-ンさんもいるみたいよ」
「本部の代表で? 彼女が出席するって事は、下の人材も育って来たのかな?」
「なかなかのやり手みたい。私も負けていられないわ」
ジュ-ンさんは、あのサヨコ・イトウさんのお孫さんだ。メルボンヌを出て行商人をしていた彼女。
出会いはたまたまだったけど、色々と繋がっていると感じた。彼女も世界に導かれているんだろう。
ジュ-ンさんの居るグランベルクは、どんどん発展していると聞いている。
俺達がこの世界に来て、長い期間過ごした街。滞在中に色々な商品や仕組みを生んだ。
そしてライアン様を通じて色々な出会いもあった。
そんな街があるアルメリア王国は、この世界で更に発展を続けている。
王国が資金を出して、蒸気機関車も増車。それ以外にも国内の電力設備も新たに建設中。
今の所、他国より一歩進んでいる印象だ。
うちの売り出した冷蔵庫なんかも国内の設置が増えているとか。
スレイブ王国は、『J-Style』でも使用している綿花で財政が潤っていると聞いた。
今やどの国でも綿製品が使用され出したからだ。それと蓮見さん達が建造したダム。
長年問題だった水害が無くなり、新しい作物も育っていると聞いた。
豊かな水源を利用した穀倉地帯も出来つつあるらしい。
そして徐々に電気を利用した製品が生産拡大中だとか。
サリファス王国は、アルメリア王国と同じく、いち早く学校建設を行った国だ。
教会関係者と協力し、国民の学ぶ意識がかなり高いと聞いている。
後、俺達の提案した三圃式農業が順調で、収穫量が増えたらしい。
そして風車を使った電力設備。国も色々考えているらしく今後が楽しみだ。
ハ-メリック帝国、ここは速水にとって、苦い思い出もある国だ。
同郷の人物の死。そして自身も命を狙われた。
この時感じた恐怖は、まだ忘れられない。
そんな帝国は今、選挙で選ばれた新皇帝が、戦争の無い国作りを目指し頑張っている。
世界で初めて行われた選挙。これには周辺国もかなり驚いていた。
国内産業の方も、アルメリア・サリファス・スレイブ三国の協力もあり、急速に発展中だ。
ファインブル王国はお国柄、教育に対し熱心な国だった。
この国が一番、学校事業がスム-ズに行われたんじゃないかな。
だけど一番印象深いのは、変な噂を流されたり、暗殺者にも出会った事。
組合の従業員に闇ギルドの構成員が居た事は、驚愕だった。
「慎一さん。そろそろ皆が集まるわ。私達も移動しないと」
「静香さんごめん。ちょっと回想してました」
◇◇◇
この後の管理組合の会合で、グ-テモルゲン王国以外の国々の話を聞いた。
どの支部も業績は順調そのもの。支部同士の交流も盛んに行われているとの事だった。
新しい組合の従業員も顔合わせし、他の支部との協力関係も約束した。
会合の後、久しぶりに顔を見たエイシャさんと静香さんを交えて話をした。
「エイシャさん。お久しぶりですね」
「本当ですね。速水さんや静香さんとは、結婚式以来じゃ無いですか?」
そう言われ、静香さんと顔を見合わす。
王城で結婚式したんだよなぁ。
「仲が良さそうで安心しました」
「まだ新婚ですから。お、おほん。それでグランベルクはどうですか?」
「速水さん。照れてます? 一番変わったのは、夜の営業店が増えたことかしら」
「ああ。そう言えばライアン様を筆頭に、清水部長や高橋課長が力を入れてたっけ」
沢田専務や清水部長、あと職人も毎日のように通っていた夜の店。
あの場所がさらに拡大したらしい。
「新規店舗にもライアン様が、資金援助したみたいなんです」
「へぇ。賑やかな夜の店なら、俺も行ってみたいなぁ」
「ちょっと慎一さん? それってどういう意味?」
「し、静香さん⁈ そう言う意味じゃありませんって!」
「アハハハ。ごちそうさまです」
静香さんに怒られてしまった。
エイシャさんの話では、他の街から訪れる人も増えたらしい。
思入れの深い街の話に、静香さんと二人喜んだ。
そんな話の後、エイシャさんは慌ただしく帰って行ったんだ。
かなり忙しいようで、予定が詰まっているんだってさ。
◇◇◇
場所は変わり、ここはマ-ルス教本部。
「ならミ-ガン達も教徒を派遣しなさいよ」
「勿論そのつもりだよ。でも知識の独り占めは駄目だろう?」
そう言い合っているのは、マ-ルス教のエルファとエルミナ教のメ-ガン。
その二人の様子を、面白そうに見ている女性が4人いた。
「もうそれぐらいにしたら?」「そうそう。見苦しいわ」「喧嘩するなら拳で語れば?」「拳は駄目!」
そんな聖女達の所に、元気なマリアがやって来る。
「どうしたの? 何か楽しい事あったの?」
「マリアちゃん? この様子が楽しそうに見える?」
マリアの発言に呆れたように答えるエルファ。そんなマリアを抱きしめるメ-ガン。
「まぁとりあえず座りましょうよ」「そうね」冷静な対応のアナマリアとルシ-ル。
「熱いファイトを見たかったのに」「だからそれは駄目」面白がっているのはジャニス。止めるのはイメルダだ。
メ-ガンに激しいスキンシップを受けながらマリアが言う。
「それで何でエルファお姉ちゃんとメ-ガンお姉ちゃんは喧嘩してたの?」
「マリアちゃん。喧嘩じゃ無いわ」「そうね。エルファが言うように喧嘩じゃ無いぞ?」
純粋な目で言うマリアに、エルファとメ-ガンも冷静さを取り戻す。
そこでルシ-ルが二人がもめた原因をマリアに教える。
「二人が言い争っていたのは、この国で始まった医学の事なの」
「医学? それって病気を治すためになんちゃらってやつ?」
「なんちゃら? ん......まぁそれで良いかな。でね。メ-ガンが言うには、エルミナ教も以前から医学に関心があったって言うのよ」
「ルシ-ル。我がエルミナ教でも病気の原因について調べていたんだ。この国より早くからな」
「ちょっと! それは言いがかりよ! マ-ルス教だって以前からこの分野は研究してたもの!」
そして始まる言い合い。マリアが来る前からずっとこの調子だったのだ。
「はいストップ! そんな様子だったら話が終わらないでしょ?」
ルシ-ルは言い合いが激しくなる前に止める。
「エルファに聞くけど、知識を独占するつもりなの?」
「それは無いわ。あくまでも学問としての確立が目的。だから分かった事はちゃんと伝えるつもり」
「そう。それを聞いてメ-ガンはどう? エルファは独占はしないと言ってるけど?」
「だが医薬品は独占販売するのだろう? 言ってる事が矛盾してるじゃ無いか!」
それを聞いていた他の聖女は思った。結局商売に参加したいだけじゃ無いの? と。
「はぁ。メ-ガンはマ-ルス教が医薬品を独占販売すると思ってるのね?」
「実際そうだろ? 違うのか?」
「はっきり言うわ。それも無い。販売するのは国。私達マ-ルス教はそこにタッチしない。販売に関係しているのは『神の御使い』である岡田殿だ」
「何?! そうなのか?! 私はてっきり、マ-ルス教会の企みかと思っていたぞ」
「はいはい。エルファ。その話を私達にも説明して頂戴。医学に関しては皆が興味ある話だし」
ルシ-ルはそう言ってエルファに説明させた。マ-ルス教は医学と言う学問を学び、これまで無かった医者の育成をしたい。だが何の経験も無い為、育成がどの程度の時間が掛かるのか分からない。
岡田の話を聞く限り、軽傷を悪化させない為の医薬品なら作れる。そして研究次第で薬草を使った薬や漢方薬、湿布薬等の開発も出来るはずだと聞いていると。
それを聞いていたメ-ガン以外の聖女達は渋い顔をした。何故なら教会の運営に関わる部分があるからだ。
「ちょっと良いかしら? あなた達。それがどういう事態を巻き起こすか理解してるの?」
大人しかったイメルダが、エルファとメ-ガンに向けて言う。
「どういう事態って?」「ん? 何ん事だ?」
「......本当に分かって無いのね。その医学とやらを教会が率先して勉強する。これについては反対はしない。でもね。その話を教徒や一般市民が聞いてどう思うか考えた? 彼らは女神の癒しを信じているのよ?」
「え? だって女神は実在しても怪我は治らないじゃない?」「そうだ。そんなの当たり前じゃ無いか?」
「はぁ? じゃあマ-ルス教とエルミナ教には、救いを求めた人に何て言ってるの?」
噛み合わない話。エルファやメ-ガンは女神の癒しについては否定的だった。
だが精神的に救われる人々が居るのは事実。なので救いを求める人々に対し、ちゃんと女神に祈る。
重傷者の傷や重い病は治せないのだ。だから出来るのは苦しまず逝ける様に祈るだけ。
それについては他の聖女も分かっている。
だが女神の存在を信じ、各教会には多額の資金提供もある。
信仰する事で救われると考える人々も多い。
そして一番重要なのは、医学という考え方をどう伝えるかだ。
上手く伝わらないと、教会の権威が失われる事態になりかねない。
そこで聖女達で話し合いが行われた。その話し合いは夜遅くまで続く。
アナマリアやルシ-ルは、時間を掛ける事を主張。
イメルダやジャニスは早い方が良いと言う。
エルファとメ-ガンは、件の重要さを理解。そして長い話の決断が出る。
「じゃあこの機会を使って、全世界にジュノ-様とマリアちゃんを宣伝。そこで医学と言う学問について知ってもらう。そこで今まで治らなかった病についても説明。勿論、女神は実在する事を強調して、信仰が損なわれない様にする。尚、この声明には全ての国にも協力させる。これで良いわね?」
「「「「「異議な-し」」」」」
その時、長く難しい話に着いて行けず、ぐっすり寝ていたマリアが目を覚ます。
「うーん。お姉ちゃん達おはよ-。話し終わったみたいだし、ご飯食べようよ!」
「「「「「「は-い!」」」」」」
マリアには甘い聖女達であった。この聖女達の会合から二週間後、全世界に各教会と国の連名で声明が発表される事になる。
その声明は人々に驚きを与える事になった。しかし病に苦しむ人々の希望に繋がる事を、教会の教徒達が触れ回る事により、大きな騒動には発展しなかった。
そして改めて世界の人々に認知される事になった女神ジュノ-と教皇マリア。
この事が各国に出来つつある、ジュノ-教会の信者が増える要因にもなったのだった。
医学という物を周知する事は、人々の意識を変える事にも繋がる。
そんな驚きを世界中の人々が感じる中、信頼雑貨の社員達はとうとう......
次話をお楽しみに。