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新製品と岡田君

改めて再始動した社員達。

 悲しみを乗り越え新たに再始動した社員達。

 各自が目標を定め精力的に活動していた。


「やっと出来た! これ可愛いでしょ?」


「何で恵がドヤ顔なのよ! 必要な資材は私が集めたんだよ?」


「えへへ。まぁまぁ細かい事言わない。洋子はオカンみたいだよね」


「だ・れ・がオカンよ! アンタみたいに世話にかかる子供はいらないから!」


 ここは『J-Style』部門の裁縫工場。

 倉木から依頼されたデザインを基に、新製品の開発を進めていたのだ。

 そしてこの日、遂に完成に漕ぎ付けたのである。


「これきっとマリアに似合うと思うんだけど」「それは......ま、まぁ似合うかもだけど」


「お邪魔します! 栗田さんは......って出来たの⁈」


「えっへん。倉木さん褒めて! ついさっき完成したんですよ! 可愛く出来てるでしょ?」


「うんうん。私のデザイン通りね! これって色は何種類か出来るのかしら?」


「はい。黒・ベ-ジュ・赤の三種類は出来ます。色を増やせないか品管に確認もしてますよ」


「流石は栗田さんね」「ちょっと倉木さぁああん! 私は?」「はいはい。頑張ったね」


 ワイワイと騒ぐ三人。そこにやって来たのは田村だった。


「えらい楽しそうですな。お?! それっておもいっきりランドセルやん!」


「田村さん。おもいっきりって......」「篤さん、その言い方は......」「あぁ、センスなし」


 今回、『ランドセル』を新製品としたのには、明確な理由があった。

 既に5ヶ国で学校が出来ているのだが、貧困層の子供達はカバンも用意出来ていない。

 そこで国の援助を受ける条件で、生徒用に製作されたのだった。

 だが倉木は学校用で満足していなかった。

 おしゃれカバンとしても使えると考えたのだ。


「篤さん。速水さんにお願いしてる件、何か言ってた?」


「愛さん。そこは抜かりないで! 速水が一番早い流通経路を考えるって言うてた」


「ありがとう篤さん。なら量産体制を整えつつ、作成ツ-ルを各店舗へ送らないと」


 各国に支店を持つ『J-STyle』では、各店舗に裁縫工場が併設されている。

 なので新製品も同じタイミングで、販売開始する事が可能なのだ。

 それに加え流通管理組合も存在しているので、物資の調達は容易にできる体制が出来ていた。




 1ヶ月後、各国で一斉に販売された『ランドセル』が、一大ブ-ムを起こす事になる。






◇◇◇




 同じ頃、速水と静香、花崎と大塚の4名は、信頼雑貨の支社設立の為、奔走していた。


「えっと支社の隣に管理組合支部も立ち上げます。机や人員の確保は、経理チ-ムにお願いしますね」


「速水。それは良いんだが、支社と組合は王都じゃあ駄目だったのか?」


「大塚さん。この国はファインブル王国としか隣接してませんから、王都まで距離がありすぎるんですよ。なので支社はアスタリカで、支部を王都に設立します」


「なるほどな。情報自体は王都側へも流れる様にするんだな」


「ええそれは勿論。いずれ道路整備も終わりますし、列車が走り出せば問題ないですから」


「慎一さん、この組合の人員はどうするの? 現地採用?」


「静香さん。実はハ-メリック支部の組合員がこっちに来るんですよ。なので責任者以外を現地採用にします」


「速水君。支社の人員はどういう基準で選ぶの?」


「面接は各部門の責任者にお願いしてます。既にこの国の貴族から紹介状も届いてるんで」


 他国でも同様だが、貴族の三男等が雇い口を求めてやって来る。

 いずれ支社は国の中枢が関わる事になるので、何人かは雇入れて欲しいと宰相からお願いされていた。

 まぁフランソワ達の様に勤勉な人間が望ましいのだが。


「とりあえず、ここは大塚さんと花崎さんに任せます。静香さん、俺と一緒に商業ギルドの人間に会いましょう」


 信頼雑貨の資材調達をスム-ズに行う為には、商業ギルドとの関係を密にする必要がある。

 速水はこれまでも各国で他のギルドと連携を深め、情報と人材を繋げる努力をして来た。

 静香も営業ノウハウを遺憾なく発揮し、速水のサポ-トをしている。

 信頼雑貨の営業ツ-トップは、異世界でも大きな成績を上げているのだ。


 


 速水と静香はこの日、商業ギルドとの提携を纏めた。


 






◇◇◇





 こちらは学校建設が始まった街の中心部。既に整地は終わり建物の建設は始まっていた。


「蓮見さん。ここも鉄筋使って良いんですね?」


「来栖。そうだな。研究棟は岡田か間宮に確認よろしく。工場は草薙か安藤に任せても良いだろう」


「了解です。それで()()はどうするんですか?」


「ああ。どうするって言われてもなぁ。働きたいって言ってるんだろ?」


「ええ。自身の工場を畳んで、一から教わりたいって言ってますしね」


 この国でも職業訓練校を始めるのだが、建設現場に職人が殺到しているのだ。

 と言うのもこの職業訓練校は、卒業者がそのまま働ける環境を用意しているからだ。

 最新の技術と知識が得られる環境を求め、各分野の職人達が国中から集まっている。


「なら日当を提示して日雇いで雇おうか。この街に家が無い奴は、喰うのにも困るだろうし」


「分かりました。入校前の勉強して貰いますわ。お-い! そこで集まってる奴! 集合!」


 必要経費が増える事になるのだが、人員が増えた事により大幅に工期が短縮できる。

 蓮見はそう考え即断した。この後、経理部門の大塚に怒られるのだが......。






◇◇◇





 一方、王城では連日会議が続いていた。

 始まった開発に関わる予算編成を財務大臣が報告する。


「信頼雑貨と取り決めた学校建設の予算はこの額になります」


 それを見たデネブは、少し考えた上で国王へ問う。


「うむ。財政的に問題はありませんな。後問題は国の財源確保ですが」


「この国の特産物は鉱石と食品。だが各領地の税収は上がって居ないのだろう?」


「それについては私が答えます。収支報告書を見る限り、一部の領地で横領がございました。ですがこれについては既に対応し、先程の資料の金額で間違いありません」


 この横領に関わっていたのは、アレリオ公爵の派閥であった。あの事件の後、公爵領は国の直轄領となり、押収した資料から不正を行っていた貴族を処罰した。


 これにより国の財源は少し増えたのだが、税収を増やすためには新しい政策が必要になる。


「国王様。現状では新たな発案は出て来ないでしょう。ここは信頼雑貨の皆様にご協力をお願いしてはどうでしょう?」


 デネブはそう発言し、ニヤリと笑う。


「それは良いな! 直ぐに速水殿へ連絡しろ! 彼らなら何か新しい事を起こしてくれるはずだ!」


 クライス国王とデネブ宰相は、速水がお気に入りだった。豊かな知識と物怖じしない速水は、この二人にとって新鮮な存在なのだ。


「こ、国王様、お待ちください。信頼雑貨の皆様には、お返し出来ぬ程の恩がございます! これ以上を求めるには酷ではございませんか?」


 楽しそうな二人に意見したのは、あの騒ぎの後、伯爵から侯爵へ爵位の上がったイストだ。

 国王派の貴族として公爵派の動きをけん制し、騒動を早期収束させた手腕を評価された。


 そして現在、王国会議にも出席する程、国王からの信頼の厚い人物でもある。


「ほう。ではイスト卿。そなたには何か考えがあるのだろうな?」


「げ、現在、岡田殿のご協力を頂き、医薬品の研究が行われております」


「イスト卿。その医薬品がこの国の税収に繋がると言うのか?」


 イストはここで国王と宰相に説明する。ほとんど岡田が言っていた事なのだが。


「信頼雑貨が進める衛生環境の改善は、病を防ぐ事に繋がっている。だが一方で包帯や医薬品はどの国でも販売されていない。今なら稼ぎ放題であります!」


 イストは左手の人差し指と親指で〇を作りながら言った。

 実際、岡田もイストの前で同じポ-ズで語っていたのだ。


 とっても悪い笑顔で!


「稼ぎ放題とな。流石は信頼雑貨という事か! 面白い! 岡田殿を呼んで詳しく話を聞かせて貰おう!」


「分かりました! 直ぐに連絡します!」


「イスト卿。よくやったと言いたいが、結局彼らに頼っているでは無いか?」


「......」


「まぁ良い。その医薬品とやらが、この国の経済をどう変えるか見てみたい!」






◇◇◇



 


 こうして呼ばれた岡田は、マ-ルス教徒を伴い王城へやって来た。

 マ-ルス教は早くから医療研究を行っていた為、岡田と知識の共有をしていたのだ。


「では少し難しい話になりますが、私の知る医学についてご説明させて頂きます。国王様や皆様もご存知の通り、病気を癒す為に教会と神に祈ると言うのがこの世界の常識ですね。ですがはっきり言ってそれは間違いです。時には患者の精神的強さで、病が快方に向かう事もあるでしょう。それは否定できません。ですが病には原因があり、それを治療する為の知識と経験が必要なのです」


 この世界に魔法は無い。しかし女神と言う存在あり、奇跡を求める考え方に繋がっていた。それにより教会の勢力が拡大していったのだ。


 だが医学が長い年月の経験と研究を経て発達した、現代日本を知る岡田達には今の現状は危険だと感じていた。


 風邪を引いただけで死に至る事も珍しくない現状。それに対し何ら手段を考えない民衆。

 その危険性をいち早く知り、衛生環境の改善を図って来たのは信頼雑貨のみだった。


 しかしマ-ルス教は、その事に疑問を持っていた。そして命を救うための研究を行っていたのだ。

 岡田はそれを知り、協力を申し出た。自身も研究者であり、知識もそれなりにあったからだ。


「と難しい話を致しましたが、ここからは産業としての話をします」


 医学と言う学問とマ-ルス教の関係性を説明した後、岡田は今後の戦略を話す。


 今回、岡田が提案するのは医薬品の販売。医薬品と言っても伸びる包帯や絆創膏等の小物だ。


 手術道具なども工場部門と一緒に考えれば制作できるのだが、医者が存在しないので意味が無い。


 とは言え医者の育成も今後の課題だ。外科手術が可能になれば、他国から患者も来るだろうし。


「先ずは軽傷に使う物。これはすぐにでも制作を開始できます。サンプルとして絆創膏と言うのはこの様な物です。収縮に優れており、切り傷などに貼り付けて使います。そしてこれが包帯です。持ち運びが簡単で軽い。そしてしっかりと洗えば、再利用が可能です」


 岡田は日本製の絆創膏と包帯を見せて説明する。同じレベルでは作れないが、繊維等は既に準備出来るのだ。


「こう言った物を使用すれば、傷の悪化を防ぐことが出来ます」


 説明を聞いている国王達は、難しい顔をしていた。いきなり知らない知識を説明されても、理解するには時間が掛かるだろう。


「突然聞いただけでは理解が難しいでしょう。ですが知識を得る事で、他の国より一歩先を進む事が出来ますよ?」



 そうドヤ顔で言う岡田。彼は教える事も好きなのだ。

 自身の知識を披露できる喜び。そして新しい研究を国のお金で出来る環境。

 黒い笑顔の岡田を見て、王達は恐怖を覚えていた。



 この日を境にグ-テモルゲン王国は、医学と言う学問を推進する事になる。

 それと同時に薬学や植物学等も発展し、医学大国と呼ばれる国になって行く。


 数年後、世界初の病院が建設される事になるのだが、それはまたの機会に―――



社員は自分の出来ることを始めた。そして岡田は医学の発展の為に動き出した。


研究者であり、商売人でもある岡田君。彼がこの世界に残すものはとても大きい。

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