サヨコさんの日記
デネブ宰相から見せられた物は速水に驚きを与えた
デネブ宰相から見せられた物。それは日記だったんだ。
懐かしい日本語で書かれている日記。その持ち主は......伊藤 小夜子。
「何でこの国にサヨコさんの日記が?!」
この世界には無い文字で書かれた物。これについては、デネブ宰相自身は知っていた。
と言うのもハーメリック帝国で使われた火薬を調べている際、目にした事があった為だ。
きっとあなた方に必要だと言って、俺に預けてくれたんだ。
「これって......」
その日記の1ぺ-ジ目を開いた時、以前に読んだあの言葉が蘇った。
『またお会いしましょう』あの日記にはそう書いてあった。
日記の1ぺ-ジ目に書かれていたのは、『ここに辿り着いたのなら、世界は動いているのでしょう』と言う言葉だった。
読み進めて行くと、この日記は以前読んだ物の続きだとわかる。
何故なら夢を見なくなってから、2年経ったある日、再び夢を見たと書かれてあったんだ。
とても長い夢。自分の知らない品物や技術を、自身によく似た黒髪の若者達が広めている世界。
まるで自身も一緒に頑張っている様に、世界は進んで行く。
新しい物が次々と世に出ていく世界に、とても興奮した事が書いてある。
男女の微笑ましい恋愛にドキドキ。『そこでブチュっといけぇええ』ってサヨコさん可愛いな。
そんな若者達を悪意が襲う。怖い。『気をつけて!』何度も叫んだと書かれてあった。。
「これって俺達の経験したことを見たって事だろうか?」
以前読んだ日記でサヨコさんが予知夢を見ていた事は知ってる。
だとすれば、ここに書かれている事は俺達の事なんだろうか?
ん? 微笑ましい恋愛って俺の事?! 恥ずかしいっす!
そんな微笑ましい日記は唐突に終わる。最後にサヨコさんから、メッセ-ジの様な文言が書かれてあった。
『全てが繋がる時、世界は歓喜し進むべき道が示される』
どう言う事だろうか? サヨコさんは何を見たんだ? 全てが繋がるって......
しかし日記はこのペ-ジで終わっていた。何度も読み返してみたが、この言葉に繋がるヒントの様な文面は無い。
「どうしてこの日記がこのタイミングで出て来るんだ?」
何気なく日記を上に掲げた時、白紙のペ-ジに文字が見えた。え? これって?
『導くのはアナタ』浮かび上がる文字。
『導き手』である俺に向けた言葉だ。
その時俺はそう感じたんだ。
「あっ慎一さん! ここに居たんだ」
「静香さん! ちょっとデネブ宰相から話があって」
「そうなんだ。皆待ってるよ。アスタリカの街へ帰ろうって」
「待たせちゃってますね。ちょうど皆に見せたい物があるんで直ぐ行きます」
静香さんと移動中にサヨコさんの日記を見せた。静香さんはめちゃくちゃ驚いていたよ。
一足早く読みながら、これって私達の事だよね? って顔を赤くしてた。
あはは。ブチュっと行けってやつですよね? 分かります。
二人で顔を見合わせた後、手を繋いで皆の下へ急いだ。
◇◇◇
アスタリカへ向かう馬車の中、日記は皆にも読んで貰った。
「これってやっぱり私達の事だよね?」
「花崎。俺もそう思う。だが何故このタイミングで見つかったんだろうな?」
「蓮見さん、花崎さん。俺はこの日記の意味を考えてます」
「慎一さん。意味? 何か考えてる事があるの?」
そこで速水は自分が見えた『導くのはアナタ』と言う文字の事を伝えた。
そこで花崎さんが日記を透かして見たが、何故かあの文字は浮かばなかった。
「ん? そんな文字見えないよ?」「だな」「見えないわね」
速水はそこで考える。自分にしか見えないメッセ-ジ。
やはり自身には特別な役割があるのだろうか? しかし明確な答えは出て来ない。
「私達にも見えませんね」「不思議ね」「マリアちゃんなら見えるんじゃない?」
アナマリアや他の聖女にも見えないらしい。
「え? 私にも見えないよ? だって、はやみんと役割が違うもん!」
ジュノ-の化身であるマリアにも見えない言葉。しかし気になる言葉が。
「マリアさん。役割が違うってどう言う事です?」
「それはいずれ分かるはずだよ! 今はやるべき事をする時なんだもん!」
マリアはそう言うと、何を聞いても知らないの一点張り。
この様子からすると、本当に分からないのだろう。
速水達も思い浮かぶことが無く、とりあえずアスタリカに帰ってから考える事にした。
◇◇◇
アスタリカの街には、王都から5日で到着した。途中滞在した街では厳重な警備が敷かれ、危険を感じる事は無かった。
そして街に到着した速水達を出迎えたのは、懐かしいメンバ-だった。
「マリア様! 速水様! お久しぶりですわ!」
「ああ! フランソワだぁ!」
アルメリア王国で初めて現地採用した社員。押しかけお嬢様ことフランソワ嬢だ。
「えっと僕らも居るんですが......」「完全に見えてない」
同じく現地採用社員であるロイド君とレビン君もいた。
「ロイド君とレビン君もお久しぶり。ちゃんと見てるよ」
「速水さん! お久しぶりです!」「蓮見師匠! お久しぶりです!」
「それでどうしたんだい? アルメリアの方は上手く行って無いの?」
「レビン。何時から俺はお前の師匠になったんだ?」
「「「専務の訃報を聞きまして、居ても立っても居られず許可を取って来ました」」」
「そうか......お墓の方はもう行った?」
「はい。今も信じられません」「あの優しい専務が居ないなんて」「悲しいですの」
「まぁとりあえず、一度中に入ろうか。話も聞きたいし、他の社員に知らせたい事もあるし」
懐かしいメンバ-と話したい事は山ほどあるが、先ずは報告が先だろう。
フランソワ達と滞在している教会内の建物へ向かうと、そこには多くの社員が集まっていた。
その中にはサリファスやスレイブ、ハ-メリックやファインブルと言った国で見知った顔が沢山。
「蓮見君、速水、中村、花崎。お疲れ様」
「清水部長。ただいま帰りました。これは一体?」
「ああ。専務の事を聞いた多くの人が、集まってくれてな。専務はとても愛されていたよ」
清水部長の言葉にまた涙が出て来る速水。沢田専務はこれだけ多くの人に愛されてたんだ。
速水達は色々な人間と挨拶を交わしながら、建物内へ入った。
「ああ。速水君。お久しぶり」「浜岡さん! ご無沙汰しております!」
「岩本! お前も帰ったのか」「蓮見さん。俺も浜岡さんと同じタイミングで知ったんだ......」
それから久しぶりに集まった仲間達と、沢田の思い出話を一晩中した。
色々な考えで別々に行動していた社員達も、沢田が再び繋げていた。
速水は嬉しく思うと同時に、これも導きなのかな? と感じたのだった。
◇◇◇
翌朝、それぞれが帰る前に一度、皆で話をする場を設ける事になった。
そこでこの国であった事を皆に説明した。その話の中では、聖女達が行った事も話された。
そこで聞かされた内容に、怒る社員も多かった。
特にこの世界に残留させるように動いた件では、怒号も飛び交った。
その件に対し、各聖女は一人一人に謝罪。その上で改めて今後の事を清水が聞く。
「皆聞いて欲しい。驚いたり怒りの感情を持つ者も居るだろう。しかし聖女殿も悪意があってした事じゃないのは理解しただろう? その上で今後の考えを聞きたい」
「私は自分の判断で残る決断をしたわ。今の生活に満足もしているし」
そう発言したのは浜岡だった。現在、グランベルクの街で『ごはん屋』を営んで居る。
「俺はこの世界をもっと周りたい。そして将来、この世界で自分で店を開きたい」
そう言った岩本に周りの社員が驚く。今まで『キッチンカー』で世界を周っているのは知っていたが、まさか店を持つ夢を持っていたなんて。
「私はこの世界で今のお店をもっと広めたい。この世界でなら私の夢が叶えられそうだから」
「俺はそんな愛さんの側にいる事に決めたんや。やっぱり好きな人と一緒に居たいしな」
倉木の発言に周囲がどよめく中、田村がちゃっかり告白する。
「私はそんな愛の夢を応援したいけど、家族や姉妹が心配だから帰る」
少し寂しそうに言う安田。そんな安田と笑顔を交わす倉木。
「私は帰るつもりだったけど、今楽しいのよね。だからもうちょっと考えたいかな」
「恵が残るなら考えるけど、私は今の所帰るつもり」
森田も現在裁縫工場の責任者として充実した毎日を送っている。そんな森田を補佐する栗田も決断を保留。
「俺はサリファスで一緒になりたい人が居る」「俺はスレイブの学校で教えたい」
「良い腕持ってる奴がいるんだよなぁ」「俺、アルメイダちゃんに告白するんだ!」
他にも残留を望む社員が多く居た。その数は全社員の三分の一程。
「そうか。色々と考えての決断だと思う。それに対して私は何も言わない。だが帰還が決まった時、考えが変われば言ってくれ。それと出来れば家族あてに手紙を書いて欲しい」
清水は社員へ向け言った。この4年近くの時間は、社員達の環境を変えた。
その中で多くの人に出会い、多くの経験を積んだ。それぞれが成長し将来を考えたのだ。
そして集まった社員達は、再び旅立って行った。
◇◇◇
その夜、速水は田村と二人で食堂に居た。
「知らなかったよ。お前が残る決断してたなんて」
「すまんなぁ。俺も色々考えてん。でもなお前と中村さんを見て思ってん。やっぱり好きな人とは一緒に居たいって」
「そうか。まぁ決めた事に反対する気は無いよ。俺は静香さんとやるべき事をするだけだ」
「はぁ? 下ネタかいな!」
「はぁあああああ? どう聞いたらそうなるんだよっ!」
「アハハハ! 冗談やがな! でもなぁ。ほんまに帰れるんか?」
「ああ。ちゃんと帰れるよ。その為のヒントもある」
速水はそう言って新たに手に入れた日記を見せる。
「これって日記か? ってサヨコはん?!」
「そう。びっくりだろ? 絶対これには帰るヒントがあるはずなんだ」
本音を言うとちょっと願望が入っていたりする。でも何かがあるはずとも思っている。
「まぁ俺も出来ること協力するさかい。明日からまた頑張ろうや!」
「そうだな。こき使うから宜しくな!」
親友である田村の前ではカッコつけたい速水だった―――
新たなサヨコの日記。果たしてどの様な意味があるのだろうか?
そして今後を見定める社員達の未来は如何に......