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悪意の結末

事態は動く

 王都へ向けて派兵と言う決断を下したアレリオ公爵。しかしその領内でも混乱が続いていた。


「一体領主様は何を考えているんだ!」「そうだよ。何で王都へ兵を向けるんだ」


 公爵領の住民も突然の派兵に驚き、領主館には多くの民衆が押し寄せていた。


「ああうるさい奴らだ! 早く追い返せ!」


「わかりました。直ぐに追い払いますので」


 イライラするアレリオ公爵。そんな公爵の様子を妻であるナディアや、息子のグレッグも不安げに見ていた。


「お母様。一体なぜお父様は派兵したのでしょうか?」


「グレッグ。きっと深いお考えがあるのです。あの人は王家の血を引いているのです。きっと良い結果になるはずですから」


 アレリオ公爵の父親は、前国王の弟の子供である。王位の争いには敗れはしたが、その血脈は高貴な物。


 その為幼い頃よりプライドが高く、現国王であるクライスとは良好な関係では無かった。


「失礼致します! ネルゼ候爵の使いの方が参られました!」


「ようやくか! わかった執務室へ通せ!」






◇◇◇





「ネルゼ卿からの援軍はどれぐらいで?」


「こちらの書状を預かっております」


 今回の派兵に対し、各派閥の貴族から使者が屋敷に訪問していた。しかし受け取った書状を読んだアレリオは、怒りを露わにする。


「何だと? 何故ネルゼ卿が兵を出せないと言うのか!」


「はい。今回は静観すると仰せつかっております」


「ふん! 怖気付いたか! もういい!」


 使者は怒り狂う公爵の様子に恐怖し、足早に屋敷を離れた。


「イノ-マはどうなっておる? あ奴が計画は順調だと言ったはずだ! なのに何故兵が集まらないのだ!」


 当初の計画では信頼雑貨の社員達を誘拐し、その技術を独占。そして国内外での影響力を確固たるものにした後、現政権を打倒するはずだった。


 しかし社員を攫う段階で失敗、挙句に殺害してしまった。そこで慌てた公爵は計画を変更。


 王都をけん制しつつ、街ごと奪う算段でイノ-マへ動く指示を出した。


 ただ此処でも計画に綻びが出る。当初公爵の計画に賛同していた派閥の貴族達が、イスト伯爵を中心とした国王派に懐柔されたのだ。


 そして事態は動く。


「報告します! アスタリカへ向かっていたイノ-マ伯爵が、討たれました!」


「な、何だと?! アスタリカにそれ程の兵は居なかったであろう?!」


「そ、それが......見慣れぬ旗を掲げた兵が......」







◇◇◇






 一方その頃王城では


「戦況はどうなっておる!」


「国王様! 斥候からの報告ではアレリオ公爵軍は王都へ進軍中。その数二千程」


「その数は公爵軍のほぼ全軍であろうな。それに対しこちらは三千と言ったところか」


「はい。現状で負ける要素はございません」


「アレリオ卿は何を考えておるのだ? どう考えても勝てる戦では無いだろうに」


「それなのですが、イスト伯爵より報告がありました」


 クライスはその報告を聞き、激怒した。私利私欲の為に『神の御使い』を誘拐し、その力を持って国を牛耳ろうという愚かな計画。


「もう許せん。あ奴は彼らの影響力を甘く見すぎだ。例え成功してこの国を手に入れても、周辺国が黙って居るはずが無いだろうに!」


「失礼します! アスタリカに進軍しておりましたイノ-マ伯爵軍は撃退されました! イノ-マ伯爵は戦死。伯爵軍の多くは投降しております!」


「どう言う事だ?! 王都からの派兵は間に合って無いだろう?」


「現在、謎の軍がアスタリカよりアレリオ公爵公爵領へ向け進軍しておりまして......」






◇◇◇







「領主様! 急ぎ報告がございます! 現在この領へ向け軍勢が向かっております! その数およそ五千!」


「何だと⁈ 何処からだ⁈ その様な数の兵士は王都にもいないであろう?!」


「そ、それが......アスタリカ方面より進軍中との事です。ど、どういたしましょう?」


「ぐ......おう、王都へ進軍中の兵を戻せ! このままでは......」


 しかし公爵軍は自領へ戻る事は出来なかった。


 国王は公爵軍へ向け軍を直ぐに動かしたのだ。そして進軍する公爵軍の後方から、国王派の貴族が挟み撃ちの形で進軍。


 取り囲まれた公爵軍は、戦意を失い多くが投降。士気が激減した兵に勢いは無く、逃げる貴族は捕縛された。


 そして公爵領を取り囲んだ謎の軍は、公爵の引き渡しを要求。領民を傷つける事無く、この騒動は鎮圧される事になる。






◇◇◇





 その三日後、王城で会談が開かれた。


「今回の件に対し、国としてお詫びいたします」


 クライス国王と宰相は、目の前に座る人物達に頭を下げる。


「世界が守るべき人を傷つけ、更に命を奪う。これは決して許される事ではないわ」


 そう国王達に言うのは、アナマリア。


「はい。首謀者であるアレリオ公爵含め、関係者には厳正な処罰を行います。二度とこの様な事を繰り返さない為に」


 アナマリアの言葉にクライスは答える。その言葉に頷き、速水を見て言う。


「速水様。『神の御使い』を代表して何かございませんか?」


「今回、我々はとても大切な家族を失いました。その悲しみは今も癒えません」


 速水はそう言い、涙を拭った。湧き上がる怒り、悲しみ。その気持ちをぶつけたい。


 そんな速水の肩に、静香が優しく手を当てる。その温もりを感じながら、言葉を続けた。


「でも憎しみからは何も生まれません。犯人を裁く事は国にお任せします」


「分かりました。必ず罪を償わせます」


 速水の目を見てクライスはそう言った。その目には強い気持ちがこもっている。


「私達から要求があります。今、速水様達を中心に世界が動き始めました。この動きを止め無いために、世界が纏まらねばならないのです」


「うんうん。アナマリアお姉ちゃんの言う通り! 女神ジュノ-の名の下に、世界が纏まり時が来ているの!」


「アナマリア様、マリア様、世界が纏まる時ですか? それはどういう......」


 アナマリアとマリアの言葉に困惑するクライス。グ-テモルゲン王国の重鎮たちも頭をひねる。


「グ-テモルゲン王国の民達よ。考えなさい。この国の女神マ-ルスは知恵の女神。そして世界と繋がるのです」


 マリアが立ち上がりそう言った。その言葉には力があり、思わず平伏しそうになる。


 その瞳は金色に輝き、まるでこの場に女神が降臨したかのようだ。


 しかしそんなマリアは長続きしないのである。


 グゥ...... 可愛い音が鳴る。


「はぁ。お腹減った......」


「え?」「は?」「ああ」「マリアだ」「うんうん」「頑張った方じゃない?」


 先程までの雰囲気が嘘のように無くなったマリア。お腹を押さえて唸っている。


 静香や聖女達は、呆れた様な顔。そのギャップに困惑するクライス達。


「あはは。と、とりあえず休憩しませんか?」


 速水は変わらないマリアを見て、張り詰めていた緊張が解れた。


 そう。今は歩みを止められない。帰還すると言う目標に向かい動くのだ。


 



◇◇◇





 この会談は昼食を挟み、今回の一連の流れが宰相によって改めて説明された。


「今回の首謀者であるアレリオ卿の供述と押収した資料から、一連の流れが分かりました」


 速水達がこの国に来る前から、アレリオ公爵は現国王体制に不満を持っていた。


 そして周辺各国の情報を得た際に、信頼雑貨の持つ技術や知識に興味を持つ。


 そこで考えられたのが知識と技術の独占だった。その為には彼らをどうにかして取り込みたい。


「速水様達が王都へ向かう情報を得た事で、計画を動かした様です」


 当初はイノ-マ伯爵領で、速水達4名を拉致するはずだった。しかしそれに失敗。


 焦ったイノ-マ伯爵は、闇ギルドへアスタリカの街での誘拐を依頼した。


 しかし此処でも失敗。足が付かない様に犯人は処分した。


 このままでは自身にも疑いの目が向く。ここでアレリオ公爵は強硬手段に出る事に。


「アスタリカの街なら、簡単に占領出来ると考えたのでしょう」


 自身の兵力と派閥の勢力の力で、王都の目を自領へ向ける。


 その間にアスタリカを占領し、信頼雑貨の社員達を手に入れる。


 そうすれば王も簡単に手出し出来ないに違いない。


 だが此処でも思わぬ事態に陥る。謎の勢力の出現だ。


「この勢力。えっと聖騎士ですな。これについては皆様が良くご存知かと」


 イノ-マ伯爵は突然現れた大軍に困惑。混乱の最中にその命を落とす。


 指揮官を失った伯爵軍は勢いを失い投降。

 参加していた中には貴族の子弟が多くいたが、その多くは戦闘の経験が無い者が大半だった。


 ※イノ-マ伯爵を殺害したのは、エイシャ達である事は秘匿されている。


 そして5千にも膨れ上がった聖騎士達は、そのまま公爵領へ向かう事になる。


 この事により公爵の計画は破綻。王都へ進軍した公爵軍も挟み撃ちに会い、沈黙。


 公爵自身も自領内で捕縛。その家族も王都へ移送される。

 これが今回の一連の流れだ。


 此処で疑問点として、最も活躍した聖騎士軍の存在。一体何故? ここまで数が増えたのか?


 それには理由があった。この事態になる前に、国内のマ-ルス教徒が暗躍していたのだ。


 各領地で聖騎士を募集。国中から騎士が集まる事により急速に拡大する事に。


「えっへん。私も頑張った!」


 そう発言するマリアと申し訳なさそうな聖女達。


 速水達の残留を望み、ある意味裏切りの行動をしていた聖女達を、マリアが動かしたのだった。


 その事が各国からの聖騎士の派遣にも繋がって行った。


「信頼雑貨の皆様の保護と言う観点から、聖騎士の存在を我が国も認めます。但し制限なしという訳には行きませんので、各教会より身分を保証する形を取りたいと思います」


 クライス国王がそう宣言する。それに対し聖女達も同意。


「勿論、ファリス教・セレス教・セルピナ教・エルミナ教・ミネルヴァ教・マ-ルス教の六神の名において不正は認めません」


「女神ジュノ-は不正を認めないの事よ! ぷんぷん!」


「ではここに約定を」


 この日、グ-テモルゲン王国で結ばれた信頼雑貨を守るための約定。


 後日、他の国でも同じ約定が結ばれる事になる。


「速水殿。そして信頼雑貨の皆様。どうかこの国の発展の為、お力をお貸しください」


 クライス国王が頭を下げそう言った。


「はい。我々も出来る限りの事を約束します」


 速水はクライス国王と固い握手を交わしたのだった―――




 こうしてグ-テモルゲン王国の騒乱は終わりを迎えたのだが......


「速水殿。少し宜しいかな?」


「デネブ宰相。どうされました?」


「実はアレリオ卿から押収した資料の中に、こんな物がありましてな」


「え? これは......」


 デネブ宰相から見せられた資料は、速水を困惑させる物だった。



信頼雑貨に向けられた悪意は、多くの力によって止められた。


そして繋がって行く意志。だが思いがけない事が速水を揺らす

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