事態は急変する
再び動き出した信頼雑貨の社員達
信頼雑貨の社員が亡くなると言う事件は、直ぐに世界中に情報が広まった。
この事件は信頼雑貨の社員達との交流のある国・人々に大きな動揺を与える。
その中でも親交の深いアルメリア王国では、兵を派遣すべきだという意見も出た。
しかし外交関係の悪化を懸念する国王や、公爵の働きかけにより何とか抑えられていた。
一方で当事者である信頼雑貨の社員達は、この事件を乗り越えるために動き出す。
速水はアスタリカの領主の元を訪れていた。
「速水殿。此度の件、私もこの国の人間として深くお詫びしたい。今、国王からの厳命で事件の容疑者を探している。必ず裁きを受けさせるつもりだ」
「どうかよろしくお願いします。今の状況が続けば安心して仕事も出来ませんし」
信頼雑貨の社員の中には今回の報復を望む意見もある。
だがこの世界で人を裁くという事が、処刑である事を忘れてはいけないと思う。
速水はハ-メリック帝国で、その事実を実際に見て来たのだから。
「今後、信頼雑貨の方々には王都から派遣される護衛が付きます。それに加えこの街でも不審者等の取り締まりを強化致しますので」
「そうですか。一日でも早く、平穏な日常が戻るようにお願いします。私共だけでなく、街の住民の方々も不安だと思いますので」
コンコン。
「失礼いたします。領主様、王都より書状が届いております」
速水と領主の会談中、執事が書状を持ってきた。その内容を読んだ領主は顔色を変える。
「速水殿、大変申し訳ないが本日はここまでにして貰えるだろうか?」
「急用のようですね。分かりました。また出直します」
速水を残し慌ただしく部屋を出ていく領主。領主が会談を中断する程の事があったのだろうか?
気にはなったが、速水は領主の館を後にする。
領主の館から教会までは徒歩圏内だが、今は安全の為に馬車で移動している。
馬車の窓から見える街中はここ数日間、物々しさが続いていた。
兵士の数が多く、まるで戦争でも起こりそうに感じる。
「早く犯人を見つけて欲しいな」速水はそう呟いた。
◇◇◇
一方その頃、王城では......
「国王様、アルメリア王国から抗議の書状が来ております」
「ああ。それだけ今回の事件が大事だという事だ。早く犯人を見つけねば、戦争になりかねんぞ」
「すでに帝国が抗議文と共に、軍を動かしていると言う話もございます」
「おいおい。帝国は内戦の後、不戦では無かったのか?」
「ええ。それだけ信頼雑貨の皆様と親交があったのでしょう」
事件後、周辺国からかなりの圧力がグ-テモルゲン王国へ掛かっていた。
そして周辺全ての国から抗議文と、犯人の引き渡し要求までされているのだ。
「宰相。犯人の目星はついているのだろう?」
「実行犯とみられる男は、路地裏で死体が出ました。男の身元から所属する組織も捜索しています。ですが組織に依頼した人物まで辿り着いていません」
頭を抱える国王と宰相。その時、兵士から緊急の連絡が入る。
「失礼します! たった今、アレリオ公爵領が王都へ向け派兵を行ったと報告がありました! そしてイノ-マ伯爵領からアスタリカへ向け兵が動いたとの報告もございます!」
「何ぃ! 内戦でも起こそうと言うのか! 宰相直ぐに緊急の軍事会議を行う! それと共に早馬でアスタリカへ伝達! 王都の兵士は公爵軍を迎え撃て!」
◇◇◇
時は戻り速水の乗る馬車は教会支部へ向かっていた。
もう間もなく到着という時、御者が速水に声を掛けた。
「速水様。たった今情報が入りました」
「えっと情報ですか?」
「このアスタリカの街へイノ-マ伯爵が兵を向けたとの事。我々も対応に出ます」
「え? 兵を向けたんですか?!」
馬車はそのまま教会支部へ入る。飛びだす様に馬車から出た速水は、皆の元へ走った。
慌てて走る速水の姿に教会関係者も驚いているが、今はとにかく皆に伝えないといけない。
そして転がり込む勢いで社員達のいる建物に入った。
「はぁはぁ。信頼雑貨の社員は集まってくれ! 大事な連絡がある! 外へ出ている社員にも連絡が取りたい!」
「何だ? どうしたんだ速水?」
「部長! 今いる社員を集めて下さい! 外へは教会の方に連絡をお願いします」
「「何だ何だ?」」「何事?」「速水が焦ってるって珍しいな」 ガヤガヤ
周辺の社員が手を止めて、速水の元へ集まり出す。
ある程度集まった社員達。皆不安そうな顔だ。
「先程、イノ-マ伯爵がこの街へ派兵したと言う報告がありました」
「おいおい本当なのか?」「それってどう言う事?」「派兵?」
「落ち着いて聞いて下さい。恐らく我々が狙われています」
ゴクッと唾を飲み込む社員達。領主のあの慌てた様子からも、悪意を持った派兵で間違いないだろう。
とにかく今は纏まる必要がある。ここでパニックになると駄目だ。
「とにかくパニックにならないで下さい。イノ-マ伯爵領からは直ぐにこの街に着きません。今の間に、どう行動すべきか話し合いたい」
速水の言葉で少し落ち着いた社員達だったが、大半の社員から街を出るべきと言う意見が出ていた。
確かに争いになれば自らに危険が及ぶ可能性がある。今いる街からなら、隣のファインブル王国までは直ぐだ。
色々な意見を出し合っている間に、街で活動していた社員達も帰って来る。
「慎一さん!」戻って来た静香は、速水の元へ駆け寄る。速水はそんな静香を見て息を吐く。
「良かった。静香さん、他の社員も一緒ですか?」「ええ。はぐれた社員も居ないわ」
他の社員達も仲間が集まった事で、安心した表情を見せていた。
そんな社員達の目に不気味な集団が映る。
「おい! あれ何の集団何だ?」「え? 本当だ」「あの旗って......」
建物を取り囲む様に大勢の兵士がやって来たのだ。これには社員達も恐怖を覚える。
速水も突然の事に驚いたのだが、その兵士の持つ旗に見覚えがあった。
「あの旗に書かれた印は」そう呟く速水。そしてその集団が突然割れる。
「ちょっと退いてぇええええ」「ニンニンでござる!」
緊張が漂う雰囲気だったのだが、そこに悲鳴に似た叫び声が聞こえた。
社員達はその声の主に聞き覚えがあった。ああ。あれは間違いない。
「じゃじゃじゃじゃーん♪ マリアがさんじょ-だよ?」
「トミ-も忘れては困るでおじゃる!」
「「「「「・・・・・・」」」」」
ちょっと意味が分からない社員達。やって来たマリアはその勢いで静香にダイビング。
トミ-は速水の元へ。どう言う事か聞こうとしたタイミングでまた集団が割れる。
「マリアちゃん達早いわよ!」「本当にね」「聖女使いが荒い」「そうよねぇ」「いつも通りでしょ?」「ああ疲れた」
社員達の前に現れたのは美女軍団だ。
「えっと。これは一体何事ですか?」速水は思い切って聞いてみる。
「速水様。お久しぶりですね。マリアちゃんは......無理っぽいので私から説明致しますね」
そう言ったのは、ファリス教の聖女アナマリアだった。速水はマリアの様子を見て納得。
マリアは静香成分の補給に忙しそうだった。
「今ここに居る兵士達は、各教会から集められた聖騎士です。ジュノ-教の旗の下、国境の無い軍隊として速水様達の元へ馳せ参じました」
「聖騎士の皆さんですか......確かにあの旗はジュノ-教会ですね」
「ここに集まったのは500名程ですが、今回の事件を聞き、各国から更に多くの聖騎士が向かっております」
「それって大丈夫なんですか? この国に対する戦争行為と捉えらませんか?」
「その点に関しては大丈夫です。この聖騎士の派兵には、周辺国の首脳陣から了解を得ています」
アナマリアはそう言った後、詳しい説明を行った。その内容を聞き、社員達はとても喜んだ。
今回の事件に対し各国が兵を出せば、戦争に繋がる危険性がある。
そこで各国は教会を通じ、速水達に援軍を送る事にしたのだ。
名目上兵士ではなく聖騎士。目的は速水達『神の御使い』を守る事だ。
その援軍を指揮するのは、ジュノ-教会のマリア教皇と各教会の聖女達だ。
思わぬ援軍の到着で社員達の動揺は薄れていく。
果たしてこの急変した事態はどの様な結末になるのだろうか―――
急変する事態に駆け付けたのは頼もしい援軍だった。