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突きつけられる現実

良い雰囲気のまま進んだ会議だったのだが......

「ではこの国の未来の為に宜しくな!」


 クライス国王はそう言って笑った。速水達を迎えた会議は、良い雰囲気で終わる。


 速水はホッとしていた。どんなトラブルがあるか分からないと身構えていたからだ。


 静香や千鶴、蓮見も穏やかなム-ドで会議が終わり、お互いに笑みを浮かべている。


 この時想像できていなかったんだ。この世界の本質を......






◇◇◇




 会議の後、国王や王妃達と会食した俺達は王城内で部屋を用意された。


 この日は緊張もあり疲れを感じていた為、各自が早めに就寝する事になった。


「ああ。人間話せば分かり合えるんだよな。心配して損したかも」


 速水はそんな事を呟いた。それから今後自身がどう動くか? 皆はどう活動するのか?


 そんな事を考えながら就寝。それからどのくらいが経ったのだろう?


「ん? 何となく目が覚めたな」


 速水の視線の先に見えたのは、見覚えのない景色......ではなく眠った部屋。


「そうか。ここは城の中だったな」


 おもむろにベットから出て窓へ向かった。辺りはまだ薄暗く、小さな灯が見える。


 速水はベットに戻り、ベット脇に用意されていた水を飲んだ。


 ん?! 今何か動いた?!


「失礼いたします。速水様」


 突然、速水の視界に入って来たのは女性だった。まぁ良く知った人物ではあるのだが。


「エ、エイシャさん。やっぱりここも入って来られるんですね」


「はい。そう言う訓練を受けておりますので」


「それでどうされたんですか? まさかここで何か?」


「いえ。本日は速水様にご報告がございます」


「え? 俺に報告ですか?」


 そこでエイシャから報告を受けた速水は、言葉を失くしてしまう。


 感情が揺れ動き何も考えられなくなったのだ。


 何故? 何故? 何故? そんな馬鹿な! だってそんな事!


 ......どれぐらい時間が経ったのだろうか。5分? 1時間? 


 混乱する速水の側をエイシャが何も言わず見ていた。








◇◇◇






 次に速水が意識を戻した時、エイシャの姿は無かった。


 ベットの側にある水差しの横にメモがある。そこに書かれた事を読みまた現実を思い出す。


《葬儀は速水様が戻られてからとの事です。どうかお気持ちを確かに》



「や、やっぱり夢じゃないのか。どうしてなんだぁああああああ」


 現実を受け入れた速水は泣き叫ぶ。そんな声を聞いた侍女が駆け寄って来るが、速水は収まらない。


 書かれたメモを血が出る程握り閉め、泣き続ける速水。


「ちょっと慎一さん! どうしたの!」「速水君?!」「おい速水! 何があった⁈」


 侍女に呼ばれた信頼雑貨の三人が速水に駆け寄る。


 静香は速水に駆け寄り、背中を撫でる。千鶴はどうしていいか分からずオロオロしていた。


 そんな二人の様子を見ながら、蓮見が速水の前に立ち話しかけた。


「速水。一体何があったんだ? お前がそんなに動揺する姿は見た事が無い」


「うぇっ。は、はずみさん。せ、専務がぁああああ」


「速水?! 専務に何かあったのか! どうなんだ!」


 速水の肩を掴み揺さぶるように迫る蓮見。


「蓮見さん! 落ち着いてください!」


 千鶴が蓮見に叫ぶ。その言葉にハッとした様子で速水から手を離す蓮見。


「すまん速水。だが何があったか教えてくれ。俺はあの人に借りがあるんだ」


「皆さん。少し落ち着きましょう。どなたか飲み物をお願いできないでしょうか」


 静香は冷静に声を掛けた。速水の事は心配でたまらないが、自分まで冷静さを欠く事は出来ない。


 速水が泣き叫ぶほどの事だ。何かがあったのは間違いない。






◇◇◇





 部屋のソファ-に移動した4人は、侍女の用意してくれた紅茶を飲む。


「速水、落ち着いたか?」


「はい。見苦しい姿を見せました。もう大丈夫です」


「慎一さん。無理しないで良いからね。ゆっくり話してくれる?」


「そうよ。何があったのか気になるけど、速水君の事も心配だし」


「静香さん、花崎さん。それに蓮見さん。心配を掛けてすみません。でも皆が知らないといけない事ですので」


 そこから速水は今朝知らされた事を話しだした。


「今朝、エイシャさんがこの部屋へ来ました。報告があると言って」


 速水はそう言って目をつぶる。そして頭を振った後、続けて話した。


「その内容はアスタリカの街で、うちの社員が何者かに連れ去られかけたという内容でした」


「え?! その社員って誰なの?」「連れ去られかけたって事は未遂?」


「中村も花崎も落ち着け。速水が喋れないだろう」


「「すみません」」


「二人が驚くのも当然です。その社員は倉木さんです。準備中の新店に押し入ったと聞きました。ですがその際、田村と沢田専務が現場に居ました」


「何故店に専務が? 田村は分かるが」


「そこまでは分かりません。ただ田村と専務は倉木さんをかばって抵抗したと。その時に田村は負傷し、専務は......刺されたようです」


「「「え......」」」


「幸い直ぐに暗部の人が犯人を撃退し、三人を保護してくれました。田村は軽い打撲で済んだのですが、専務は一刻を争う状態だったんです。懸命に治療を施し何とか回復に向っていた専務は、今朝方容態が急変し亡くなったと......」


「そんなぁああ」「う、嘘よね?!」「何であの人がぁあああ」


 事の顛末を聞いた静香達は泣き叫ぶ。速水は隣で泣く静香の肩を抱きながら再び泣いた。


 速水は自身の命を狙われた経験がありながらも、この世界の人の悪意を甘く見ていた。


 これは速水だけでなく、信頼雑貨の社員全てがそうだろう。


 平和な日本では身近に危険を感じる事は先ずない。だがここは違う世界であり、命が軽い。


 本来なら自己防衛はもっと徹底すべきだったのだ。アルメリアでは護衛も雇っていた。


 そして速水には暗部の護衛がいた。だから今朝エイシャから話を聞いた際、何故守れなかったのか?


 どうして? と責めてしまってもいた。今考えると責任は自身達にあるのだ。


 暗部の人が速水を守るのは、『導き手』と言う存在だから。


 他の社員も『神の御使い』と呼ばれてはいるが、当然ながら生身の人間。


 そんな当たり前の事でさえ、速水達には考えられないでいた。


 周りから特別視されていた事もあるだろう。


 だから守られて当然だと考えていたのだ。


 そんな事を頭で考えながら、速水は気を引き締める。今は動かなければ駄目なのだ。


「皆さん。悲しむのは専務の顔を見てからにしましょう。だから皆の待つアスタリカへ帰らないと」


「そ、そうね慎一さん」「わ、分かったわ」「あ、ああ。俺も顔が見たい」


 速水達は国王や宰相に言伝を頼み、慌ただしく城を出る。


 馬車の周囲はこれまで以上の人員が守っていた。


 その中にエイシャの姿も見える。


 速水はエイシャに頭を下げたが、エイシャは頷くだけだった。


 馬車は昼夜問わず走り続ける。当然馬は疲弊したが、それをエイシャ達がカバ-する。


 休憩は街では取らず、睡眠も馬車の中だ。もう何を信用して良いのか分からなかった。


 そして悲しい報告から5日後、速水達はアスタリカに到着した―――

突然の訃報に混乱する速水達。


この事が社員達に現実を突きつける。


果たして社員達は何を思い、どう行動するのだろうか......

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