強力な援軍?
更新が遅くなりすみません。
イスト伯爵の館で一泊した速水達4人。本来なら王都へ向けて出発する予定だった。
しかし昨日、伯爵のある提案でこの街に滞在する事になった。
皆で朝食を食べた後、速水達は今後について改めて意見を交わした。
「伯爵の提案で出発を遅れせたのは良かったのかな?」
「私は正直怖かったから」
「静香と同じく。ちょっと外へ出るのは怖いわよね」
「速水はその点をどう考えてるんだ?」
「蓮見さん。それに静香さん、花崎さん。俺としては負けたくないです。怖くないとは言えません。でも今までは守られていただけなんですよ。本来なら俺達って、いつ襲われても可笑しくなかったんですから」
「「「......」」」
速水が襲われたのは、今回で3回目だ。
静香と千鶴はアルメリア王国の王都へ向かう際と合わせて2回目。
唯一これまで何もなかったのは蓮見だけだ。
「私も千鶴も危険を感じたのは2回目よ。でも今回のは眠らされたって言うのが......」
「そうね。直接的な暴力も勿論怖いけど、気が付かない間に何かされるって考えたら......」
「俺は喧嘩ぐらいなら何も思わないが、暗殺って考えると動くのも怖いな」
「確かに明確に命の危険を感じるのは怖いですよね。俺も馴れたりはしません。だから皆が怖いのも分かります。でもだからって引き籠って何もしないのも、俺達らしく無いと思うんですよね」
速水は帝国で命が簡単に奪われる理不尽を知った。そして自身の命を狙われる恐怖も知っている。
だがそれでも何かを変えたいと思っていたのだ。それが例え棘の道だとしても。
何故なら自分たちが行った改革によって、感謝の言葉と笑顔を見たから。
虐げられた環境にあった人々が、今を楽しく生きている姿を見たからだ。
そんな想いもこもった速水の言葉は、静香達に伝わる。
「慎一さん。私は直ぐに切り替える事は出来ない。でも慎一さんの言う、負けたくないって気持ちもわかるよ」
「そうだよね。負けてたまるかって私も思う。怖いけど」
「ああ。俺達は何も悪い事はしてない。悪意に怯えて何もしないって、俺達には似合わないしな」
「俺は喧嘩も出来ないし、大した力は無いです。でも静香さんや花崎さんを守るぐらい出来ますよ。蓮見さんは......俺より強いっすね」
「ん? 俺は守ってくれないのか? 王子」
「ぷっ、お、王子じゃありませんよ!?」
「「アハハハ」」
緊張した空気が和んできた頃、俺達のいる部屋に執事がやって来た。
「ご歓談中に申し訳ございません。皆さまにお客様が見えられております」
「え? 俺達にですか?」
突然の来客と言う言葉に、速水達は緊張した。執事はそんな速水達を伯爵の執務室へ案内する。
◇◇◇
執務室へ着いた速水達を出迎えたのは、笑顔のイスト伯爵だった。
「寛いでいるところすまない。君達に是非、会わせたい人が居てな」
伯爵はそう言って、速水達をソファ-に案内した。そこには風格のある男性。後ろには護衛と思われる騎士装束の人物がいた。
「では紹介しよう。このお方は」
イスト伯爵の言葉を男性が手で制した。そして立ち上がり言う。
「神の御使いの方々。私はクライス・グ-テモルゲン。この国の国王だ。此度の件、国王として謝罪したい」
自らを国王と名乗った男性が頭を下げる。伯爵と護衛の方が驚いてオロオロしていた。
速水達も突然現れた国王が、頭を下げている状況に固まっていた。
「......国王様、あ、頭をお上げになって下さい。お気持ちは受け取りましたので!」
正気を取り戻した速水がそう声を掛けるまで、国王は頭を上げなかった。
その姿に速水達のわだかまりも、晴れて行く様な気がした。
場が落ち着きを取り戻した後、速水達も着席し改めて国王と話をする事になった。
「謝罪を受け入れてくれて良かった。今回の件は国として対処する。どうか私に免じて話を聞いてくれまいか」
「では改めて自己紹介させて頂きます。私は速水 慎一と申します」
「妻の静香です」「花崎と申します」「蓮見です」
「私の事は気軽にクライスと呼んでくれ。後ろに居るのが近衛の団長でミデルだ」
「こ、国王様?! 自身のお立場をお考え下さい!」
イスト伯爵は国王の軽い感じに慌てている。速水達も国王を名前で呼ぶなんて出来るかいっ! と内心で突っ込んでいた。
そんな伯爵や速水達の様子を、ミデルという騎士団団長は腹を抱えて笑っていた。
「おい。ミデル何を笑っているのだ?」
「だ、だって国王様がいつも通り過ぎて......ぷぷぷ」
そんな二人の様子に部屋の空気が軽くなる。
「神の御使い諸君。国王様は城でもこんな感じだからさ。君達も緊張しなくて良いよ」
「ミデル? お前俺を馬鹿にしてないか?」
「と、とんでもない。俺は緊張をほぐそうとですね......」
こんな調子でじゃれ合う二人を見て、速水達も落ち着いた。
「ご、ごほん。国王様、そろそろお話を」
「イスト卿。そ、そうだな。すまん。では改めて今回の件について話をしたいのだが」
「はい。イスト伯爵から貴族の関係については聞いております」
「そうか。なら話は早いな」
国王はそう言って現在の情勢について語った。概ね伯爵から説明があった内容であったのだが。
「俺としては今の国の状態を変えたいと思っている。だが血が流れるのは、最小限に抑えたいのだ。そこでお主らからの意見も聞きたい」
「これは私の個人的な考えとしてお聞きください」
国王の問いかけに答えたのは速水。
「私達も血は見たくありません。新しい物が理解できないと言う気持ちも理解できますし。でもそれで命を狙われるのは嫌です」
「うむ。速水殿と言ったな。今後君達の安全は国王として保証する。勿論、今この場に居ない方々の安全もだ」
「国王様の言葉に補足ですが、我々騎士団がアスタリカの街に、兵士は派遣しているんだ」
それを聞いて速水達はホッとした。アスタリカには社員の多くが滞在している。怖いのは誘拐などがあっても対処が出来ない事だったから。
「ありがとうございます。今のお話が無ければお願いしようと考えていましたので」
「君達にも今後は護衛は付けさせてもらう。その為の人員も連れてきているしな」
「そうですか。実は俺達にも護衛してくれている人が居るのですが......」
速水はエイシャ達の存在を国王に話した。それを聞いた国王はとても驚いた。
他国とは言え絶大な力を持つミネルヴァ教の暗部。
その暗部が速水達を護衛していると言うのだから、本来これ以上の安心は無い。
「そ、そうか。だがその護衛の者も王城内には入れまい」
「えっと......そ、そうですよね? 流石にあの人でも」
国王も速水も、もしかしたら? と言う考えはあった。だがそれを肯定も出来ない。
速水的にはエイシャなら王城への侵入も出来そうな気はしている。
少し微妙な空気になったが、速水は素直に護衛をお願いした。
この後、イスト伯爵と国王が内密な話をすると言うので、速水達は退室した。
◇◇◇
この会談の翌日、速水達は王都へ向け出発した。
「何でこんなに揺れないのだ? 是非、私のもこの馬車を作って欲しい!」
「あはは。国王様、少し落ち着いいて下さいな」
「ミデル! お前からもお願いしろ!」
速水達の目の前には、伯爵と国王達がいる。
そして馬車の周りには、国王直属の兵士達。
「ああ。これって目立ってるよね? こっそり王都へ向かうと思ってたんだけど」
「「「激しく同意!!!」」」
厳重な警備の元、速水達が王都へ到着したのはそれから2日後だった―――