貴族の協力者
襲撃の余韻も冷めないまま、馬車は進む。
エイシャ達の手配で、安全と思われる街を目指し進む馬車。
速水達4人は、まだその恐怖を拭えないでいた。
速水は帝国でも同じ経験をしていた為、咄嗟に行動できた。しかし気が抜けていた事は事実。
他の3人は眠らされていた事に恐怖していた。
「俺は完全に意識がなかったなぁ。あの時はやけに酒が回ると思ってはいたんだが」
「蓮見さん。私もそうです。慎一さんや皆がいるし、こう言う危険なんて考えてませんでした」
「私も蓮見さんや静香と一緒。速水君やあの女の人が居なかったら......」
「とにかく王都へ着くまで、俺達も色々と気をつけて行動しましょう」
速水は出来るだけ明るく三人に語り掛けた。今はとにかく王都へたどり着くことが優先。
そして出来れば国の力で安全を確保したい。
「速水様。間もなくイストと言う街に到着します。この街を治めるスペルノ・イスト伯爵は、信用できる方です」
御者席にすわる護衛が、速水達にそう告げる。エイシャ達が安全と判断している様なので、緊張した空気も少し和らいだ。
それから20分程馬車は進み、イストへ到着した。
◇◇◇
街へ到着した馬車を見た街の衛兵は、焦った様子で速水達の馬車を止める。
「えっとすみません。御使いの方々でしょうか?」
「はい。間違いありません。何かございましたでしょうか」
「い。いえ! 明日の到着とお伺いしておりましたので! 申し訳ございませんが、案内が来るまでこの場でお待ち頂きたいのです」
確かに当初の予定では、明日到着予定だった。
ここまで慌てている様子を見ると、この街に速水達が襲われた話は届いていないようだ。
暫くすると伯爵の使いと言う人がやって来る。
「お待たせ致しました。このまま領主館までご案内致します」
「わかりました。誘導に従います」
馬車は街の中心部をしばらく進み、目的の領主館を目指す。王都に近い街という事もあり、活気はあるようだ。
何やらこちらを指差す住人もいる事から、事前に告知があったのだろう。
そんな人々を見ながら馬車は領主館に到着。馬車を降りた速水達を出迎えたのは、温和そうな人物だった。
「ようこそお越しいただきました。皆さまの到着を心待ちにしていましたよ! 私がこの街の領主でスペルノ・イストと申します」
「これはご丁寧にありがとうございます。私は信頼雑貨の蓮見と申します」
「同じく速水と申します」「その妻の静香です」「花崎と申します」
イノ-マ伯爵とは違い、歓迎されている雰囲気を感じる速水達。挨拶を済ませた後は、応接室へ案内された。
◇◇◇
応接室へイスト伯爵自身が案内。そのまま歓談する事になった。
「お疲れでしょう。今日はゆっくりできるように、この館でお部屋もご用意しておりますので」
「ありがとうございます。こちら私共で扱っている商品です。どうぞお納めください」
イスト伯爵にお土産として持って来た物を渡す。
伯爵は興味深そうに手に取りながら、一つ一つの説明を聞いてくる。
コンコン。「失礼いたします」
部屋の入り口がノックされ、執事が案内して来たのは、妙齢の女性と年若い男性だった。
「会えるのを楽しみにしておりました。私はスペルノの妻、クラリス・イストと申します」
「私は伯爵家長男のシュナイザ-です。是非皆さんのお話をお聞かせください」
部屋に入って来たクラリス夫人とシュナイダー君。2人も先ずはお土産が気になるようで、イスト伯爵と共に多いに盛り上がっていた。
速水達も賑やかな雰囲気の中、緊張が徐々にほぐれる。
出されたお茶やお菓子を食べながら暫く話をした後、速水は切り出した。
「今からとても需要な話を聞いて頂きたいのですが」
イスト伯爵達は速水の真剣な表情を見て、緊張した様子だった。
「速水殿。その話は内密なものでしょうか?」
「出来れば関係者以外には聞かれたくありません」
それを聞いたイスト伯爵は、直ぐに人払いを命じた。
部屋に残ったのは伯爵家族のみ。シュナイダー君は時期当主という事で、了承の確認があった。
「実はイノ-マの街で、私達は襲われました......」
速水は出来るだけ正確に襲撃の事実を話した。それを聞くイスト伯爵達は、驚き怒りを露わにする。
「許せん! 速水殿少しお待ちいただいてよいだろうか?」
「はい。時間はたっぷりありますので」
イスト伯爵は応接室を出て行った。その様子から何処かに連絡を入れるようだ。
「女性の方々はさぞ怖い思いをされたでしょう。この館に居る間は、安心してくださいね」
「私も微力ながら皆さまの安全を守ります」
クラリス夫人とシュナイダー君は、真剣な表情で速水達にそう言った。
「ありがとうございます。そう言って頂くと心も落ち着きます」
暫く夫人達と歓談していると、イスト伯爵が帰って来て言った。
「速水殿。明日の出発を遅らせる事は可能でしょうか?」
「どう言う事でしょう? 少し日程をずらす事は可能ですが、出来るだけ早く王都には行きたいです」
「良かった。実は先程、私の寄親であるナルディ公爵に親書を送りました」
イスト伯爵はそう答え、自身の考えを説明してくれた。
①速水達の改革に反対する勢力を抑える為に、自身を含め公爵の派閥に連絡を入れた事。
②襲撃の事実から速水達の通るル-トに危険がある為、予定の変更が必要な事。
③安全を考え、ある方法で王都まで送りたい事。
速水達は伯爵の考えを聞き、話し合った上で同意する事にした。
「イスト伯爵よろしくお願いします。あともう一点、お伺いしたい事があるのですが」
「何でしょう? お答えできる事なら何でも聞いてください」
「私達はこの国で歓迎されていないのでしょうか?」
速水のその問いにイスト伯爵は難しそうな顔を浮かべた。
「その問いにお答えするには、この国の現状を説明しなければならないですね」
イスト伯爵はそう前置きしてから、グ-テモルゲン王国の内情を語ってくれた。
国王派と呼ばれる宰相や、ナルディ公爵に連なる貴族が現在主流である事。
それに対しノックヒル公爵と、その派閥である貴族が反発している事。
「という事は派閥同士で対立しているのでしょうか?」
「恥ずかしながらそうなります。ですが速水殿達を争いに巻き込むなど、許される事ではありません」
イスト伯爵は頭を下げてそう言ってくれた。この人は信用できる人だと速水は感じた。
「どうか頭を上げて下さい。イスト伯爵のお気持ちは、しっかりと受け取りましたから」
速水の言葉に、蓮見達も頷いている。正直な話、今すぐに全てを信じる事は怖い。
だが真摯に向き合ってみて、目の前の人物は信用できると思ったのだ。
その後、夕食の時間まで色々な話をし、用意された部屋で就寝。
翌朝、速水達はある訪問者と出会う事になる―――
速水達にとって安心できる人物に出会えたようだ。
次なる出会いは速水達の今後を......