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お互いの気持ちと大切な親友

今回は田村にスポットライト。

 愛と喧嘩をした田村は、アスタリカの街の食堂に来ていた。


 喧嘩自体は些細な事だったが、自身を振り返るには良い機会だと思っている。


「おばちゃん。今日のオススメちょうだい!」


「田村君。いつもありがとね。何かあったんか?」


「え? 何で?」


「そりゃあ、そんな顔してたらわかるわよ」


「ちょっと喧嘩してもおて。何気に凹んでんねん」


「ああ。あの娘さんと? 珍しいわね。仲良さそうに何時も見てたのに」


「些細な事やねんけどなぁ。わいが悪いと思ってるんやけど」


「仲が良い程、喧嘩するって言うわよねぇ。おばちゃん、羨ましいわ」


 食堂の女将はそう言うと、他の客に呼ばれ離れて行った。田村は喧嘩の事を思い出す。


 近々帰れるって考えると、色々な思いが増えた気がする。


 この世界に来た当初は、ラノベやアニメと同じ展開だと喜んだ。


 それに同僚一緒だからか? 本来なら真っ先に怖いと思うはずなのに、楽しい感情の方が強かった。


 それが生活して行くうちに、現実を知る事になった。死が間近にある事が分かったのだ。


 そうなると覚悟を決める必要も出た。いつ何があるか分からない。なら後悔だけはしたくないと。


「今思ったら、思い切った事したなぁ。俺がまさか愛さんに告白するとか」


 田村は速水を応援しつつ、自分は半分諦めていた。共同生活を送っていても、ここは異世界。


 女性社員は業務中以外、出来るだけ男性社員とは離れていた。


 好意を寄せている倉木とは、部署が違う事もあり接点があまりなかった。


「速水は同じ部署やし、距離が近かったからなぁ」


 そんな生活が続く中で、田村にとっては千載一遇のチャンスが訪れた。


 アルメリア王国を離れ、愛と一緒に他国へ行く事になったのだ。


 初めて訪れた国でお互いの距離は縮まった。何気ない日常がバラ色に染まって行く。


 そんな毎日が続くと気持ちに余裕が出来て来る。そうなると、この日々が永遠に続いて欲しいと考えた。


「ほんであの夜。愛さんに気持ちを伝えたんやったなぁ」


 スレイブ王国での改革が一段落着いた頃、夜の街を愛と二人で歩いた。


 徐々に発展してきた街の様子を眺めながら、楽しく会話をした二人。


 休憩に広場のベンチで休んでいた時、田村は愛に気持ちを伝えた。


 返事を貰うまでの時間が、とても長く感じられたことを覚えている。


「よろしくお願いします。って言ってくれたんやったっけ」


 その場面を思い出し、放送禁止な顔で1人顔を赤くしている田村。


「田村君。その顔は止めた方が良いよ」


「へ? あ、あははは」


 食堂の女将は残念な表情を浮かべながら、注文の定食を配膳した。


 田村も流石に少し落ち込んだが、定食を食べながら回想に戻る。


 愛の残りたいと言う気持ちは理解できる。これまでこの世界での愛を、誰よりも見て来たのだ。


 毎日色々なデザインを考え、新店舗や既存店のレイアウトに頭を悩ませていた愛。


 時には売れない物もあり、遅くまで反省点や改善点を考える愛。


 そして店の大成功を喜び合ったあの時。考えればどんな愛の事も大好きだった。


 では何故? 自分は愛の気持ちを受け止められないのか? どうしても帰りたい?


「やっぱり帰る帰らへんの問題が、俺の中でめっちゃ葛藤してるんかなぁ」


 帰る為に行動する仲間達を、何の疑問も無く見て来た。何処かで他人事の様に考えていたんだ。


 勿論、日本での生活も不満があった訳では無かったのだから。


 この世界でもライバルであり、親友である速水と張り合うように頑張った。


 だが何時しかその頑張りを、愛に見て欲しいと思うようになったのだ。


「ああそうか。俺って結局、大切な物がちゃんと分ってなっかったんや」


 いつの間にか無くなった空の食器を眺めながら、田村は自身の本心に気がつく。


 そして勘定を払うと、店から走って出て行った......






◇◇◇





 一方、宿舎を飛びだした愛は『J-Style』の仮店舗へ来ていた。


「何であんなに怒っちゃんだろう」


「それだけ好きなんじゃない? 田村君の事」


「え? 美樹! どうして......」


「そりゃあ親友の事だからね。愛が行く所って分かるし」


 親友の美樹が突然、現れた事にドキリとした愛。だが驚く気持ちと同じく安心もした。


 二人は同期で信頼雑貨に入社。部署は違ったが、お互いに頑張って来た。


 愛は総務部で社内のリクリエーションを担当し、会社からの評価もそれなりにされた。


 そんな愛に負けず、販売部で着実に実績を上げて来た美樹。


「少しは落ち着いた?」


「うん。ちょっと篤さんに甘えてたみたい」


「まぁそう言う関係だし、喧嘩もしない彼氏とは長く続かないわよ」


「あはは。だよねぇ。でも篤さんって優しいからさ」


「はいはい。ご馳走様」


 愛は少し恥ずかしそうにしながら笑った。そんな愛を笑顔でからかう美樹。


 どちらともなく吹き出してしまう。


「アハハ! やっぱり愛はいつも通りだね」


「ええ⁈ どういう意味よ! でもありがとう」


「どういたしまして? それより帰らないって決めたんだね」


「うん。まだまだやりたい事いっぱいあるんだ。だから帰らない。だけど......」


「まぁ決めたんなら頑張りなよ。後は田村君か」 「うん」


 その後、当たり障りの無い事を話しながら過ごす二人。美樹としては離れるのは辛い。


 だがそれと同時に親友の気持ちも尊重したいのだった。


 美樹自身は日本への思い入れと言うより、家族の心配があった。


 美樹は母子家庭で育ち、下に高校生の妹がいる。父親は美樹が小学生だった時に亡くなったのだ。


 何とか短大までは家の貯蓄で卒業出来たのだが、入社後は家計も助けていた。


 このまま帰れなければ、妹の進学が難しくなる。そう思うと一刻も早く帰らねばならない。


「愛の事は応援するよ。私はどうしても帰らないといけないから」


「うん。家の方が心配だもんね」


「流石に4年近く経ってるから、帰っても遅いかも知れないけどね」


「そうだね。あの時に戻れたら良いのにね」


 美樹はこれだけ年数が掛かっている事で、毎日が不安で一杯だった。


 そんな時、いつも側にいたのは愛だ。帰還が近づく今、愛の為に何かしたかった。


 



 ドンドンドン。突然、仮店舗の入り口が叩かれた。


「愛さん! ごめん! 俺は自分の事しか考えて無かった! でも! 決めたんや!」


 聞こえてきた声を聞きながら、愛は花が咲くように笑顔になる。


「ほら。愛しのダ-リンが迎えに来たよ! 行っといで」


「ごめんね美樹。ちゃんと話してくるから」


 走ってドアへ向かう愛を見送り、美樹はため息を付く。


「全く。恋愛ドラマを目の前で見せられる気持ちも考えて欲しいわね」


 その後、仲直りをした田村と愛。


 果たして二人がどんな結論を出したのか? それを知った時、速水達は何を思うのだろう?


 帰還が近づくにつれ、信頼雑貨の面々を数奇な運命がのみこんでいく―――



信頼雑貨の社員達は、個々で悩む。


田村と愛の決断を速水や静香はどう受け止めるのだろうか......

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